第1004回 最後の山場、9月の連戦(5) 得点力不足に悩むフランス
■首位突破が厳しくなったルーマニア戦のドロー
誰しもが勝利を期待したホームでのルーマニア戦、フランスは攻めに攻めた。ボール保持率は実に67%、CKの数はフランス12、ルーマニア1、そしてシュート数はフランス20に対しルーマニア3と圧倒的にフランスが試合を支配していたことがわかる。しかし、ティエリー・アンリの先制ゴールとジュリアン・エスクーデのオウンゴールで1-1のドローに終わる。首位セルビアに迫るためには勝利が必要だったフランスにとってはまさに負けに等しい引き分けである。
■7試合でわずか5得点の2009年
ルーマニア戦の数字が示すだけではなく、フランスは得点力不足に悩んでいる。8月12日にアウエーで行われたワールドカップ予選のフェロー諸島戦はアンリの不在ということを差し引いても1-0というスコアは不満の残るところである。6月に国内で行われた親善試合ではトルコには1-0で勝利したが、ナイジェリアには0-1で敗れている。また、3月末と4月はじめに行われたリトアニアとのワールドカップ予選の連戦は、連勝したが、ホーム、アウエーとも1-0という最少得点での勝利であった。さらに今年初めの試合となる2月のマルセイユでのアルゼンチンとの親善試合は0-2で完封負けを喫している。
つまり、今年になって7試合戦って得点はわずかに5しか記録していないのである。もちろん、ワールドカップ予選のようなタイトルマッチでは勝利することが何よりも重要であるが、それほど強い相手と戦っているわけではない。この7試合でフランスよりも世界ランキングで上位のチームはアルゼンチンであるが、ホームゲームであり、アルゼンチンもワールドカップ予選で苦しんでいるとおり、それほど状態のいいチームではない。
■アンドレ・ピエール・ジニャック以外は代表から外れた新人FW
昨年の欧州選手権での敗退以降の新チームの戦績を見ると、昨年8月のスウェーデン戦は3得点(アウエーの親善試合、3-2でフランスの勝利)、9月のオーストリア戦は1得点(アウエーのワールドカップ予選、1-3でフランスの敗戦)、セルビア戦は2得点(ホームのワールドカップ予選、2-1でフランスの勝利)、10月のルーマニア戦は2得点(アウエーのワールドカップ予選、2-2の引き分け)、チュニジア戦は3得点(ホームの親善試合、3-1でフランスの勝利)と5試合で11得点とコンスタントに得点をあげてきた。この5試合で失点も9得点あり、失点の多さが昨年同期の課題であったが、11月のホームでのウルグアイとの親善試合でスコアレスドローとなってから、急転したようである。
得点力不足には人材の問題があるかもしれない。昨年秋の親善試合でチュニジア戦でのフローラン・シナマ・ポンゴル、ウルグアイ戦ではスティーブ・サビダンと2人のFWが代表にデビューしているが、2人ともその試合が今のところ唯一の代表での試合となってしまった。6月のナイジェリア戦でデビューしたロイック・レミも同様である。結局、4月のホームのリトアニア戦でデビューしたアンドレ・ピエール・ジニャックが、その後代表に定着した唯一のFWである。フランスの攻撃陣は深刻な人材難が存在しているのかもしれない。
■脅威ではないフランスのセットプレー
しかし、真の問題は人材難ではない。ルーマニア戦での唯一の得点はCKからつないだボールをアンリがシュートしたわけであるが、12本のCKを直接得点に結びつけることができなかった。フランスの攻撃の大きな課題はセットプレーからの得点力不足である。実は昨年の新チーム発足以降、16得点しているが、PKを除くとCKやFKからのセットプレーでは1点も奪っていないのである。
実はフランスのセットプレーからの得点は今からほぼ2年前の2007年10月のフェロー諸島戦でフランク・リベリーのFKをカリム・ベンゼマがヘディングでゴールを決めたのが最後である。さらにCKからの得点はさらにその前年の10月のフェロー諸島戦でのニコラ・アネルカが最後である。そして最後のFKからの得点もCKからの得点も、フェロー諸島という弱小チーム相手で記録している。
つまり、強化のために時間を割くことができない代表チームにとっての攻撃の切り札とも言えるセットプレーであるが、フランスのセットプレーは他国にとっては全く脅威ではないのである。(続く)