第86回 フランス人審判の活躍(2) 高い評価を受けたフランス人審判

■2人のデビュー戦はアルゼンチン-ナイジェリア戦

 前回の本連載では本大会に出場したジル・ベイシエール氏とフレデリック・アルノー氏という2人のフランス人審判と過去の大会でのフランス人審判についてご紹介したが、今回は2人のフランス人審判の今大会での活躍ぶりを紹介しよう。
 まず、フランスのイレブンがグループAに入り、韓国でグループリーグを戦うことから、フランス人の審判は日本で行うグループリーグで審判を務めることになった。主審として登録されたベイシエール氏と副審として登録されたアルノー氏は6月2日に茨城のカシマサッカースタジアムで行われるグループFの開幕戦であるアルゼンチン-ナイジェリア戦の審判が割り当てられることになった。

■1996年8月1日、アトランタオリンピック決勝

 この試合はいくつかの意味で非常に難しい試合であった。まず、グループFは死のグループといわれ初戦から激しい試合になるであろうということ、そして、鹿島地区は日本でも有数のサッカーが人気のあるエリアであり、目の肥えたファンの前で笛を吹かなくてはならないこと、この2つがあげられる。
 しかし、この試合は6年前のアトランタオリンピックの決勝戦の再現であることを忘れてはならない。1996年8月1日に行われたこの試合はアルゼンチンが先行し、ナイジェリアが追いつくという展開で進展し、2-2で迎えた試合終了直前、ナイジェリアのエマニュエル・アムニケのゴールはオフサイドであるかに見えたが、審判団はオフサイドではないと判断し、ナイジェリアが決勝点を入れ、アフリカ勢として最初の世界のビッグタイトルを手中にした。ダニエル・パサレラ監督をはじめとするアルゼンチンの抗議は試合後まで続いたが認められなかった。
 この試合に出場していた数多くの選手が成長し、日本の地で再戦することになった。今回のナイジェリアの選手の中でアトランタオリンピックのメンバーだった選手はヌワンコ・カヌー、ジェイジェイ・オコチャ、ガーバ・ラワル、セレスティン・ババヤロの4人。一方、アルゼンチンの選手を見渡すとクラウディオ・ロペス、エルナン・クレスポ、ハビエル・サネッティなど10人を数える。アルゼンチンのメンバーはアンダーエイジの大会として確立したオリンピック決勝戦での悔しさを忘れずに茨城での試合に立ち向かったはずである。

■難しい試合をうまくコントロールし、高い評価

 アルゼンチンにはマウリシオ・ポチェッティーノ、ナイジェリアにはオコチャといずれもパリサンジェルマンに所属する選手がおり、フランス人審判の癖を熟知している。
 試合は結局1-0でアルゼンチンが逃げ切ったが、イエローカードは両チームあわせて3枚、フランスリーグでベエイシエール氏の1試合あたりの平均警告数3.1とほぼ同じ数字となった。また全体的なジャッジも安定し、大会本部からも高い評価を受けた。もちろん副審のアルノー氏のアシストも見逃せない。
 その結果、ベイシエール氏は2試合目としてグループHの最終戦の日本-チュニジア戦の主審を担当することになった。この試合は両チームに決勝トーナメント出場がかかっており、日本は地元のチームである。また、チュニジアには2人のフランスリーグ所属選手、日本はフィリップ・トルシエ監督以下多くのフランス人スタッフを抱えており、第1戦に増してやりにくい試合となったが落ち着いたレフェリングを見せた。

■主審、副審とも準々決勝以降のメンバーに選ばれる

 一方のアルノー氏は6月11日に横浜で行われたグループEのアイルランド-サウジアラビア戦、前述の日本-チュニジア戦の副審を務め、ベイシエール氏同様評価され、2人は6月19日にFIFAから発表された準々決勝以降の審判32人(主審、副審16人ずつ)に選ばれた。主審、副審ともこの段階に残った国はフランス以外ではスウェーデン、ドイツだけである。準々決勝以降ではベイシエール氏は準々決勝のセネガル-トルコ戦、準決勝の韓国-ドイツ戦の第四の審判を務め、アルノー氏は準決勝の韓国-ドイツ戦の副審を務めた。
 残念ながら2人が決勝のピッチに立つことはできなかったが、それは次回大会の楽しみに取っておきたい。今回の決勝の笛を吹いたのは、6年前のアトランタオリンピックの決勝でアルゼンチンだけではなく世界中から抗議を受けたピエルルイジ・コリーナ氏である。判定に問題の多い大会であったが、是非とも更なる研鑽を積んだ審判のジャッジを次回大会では期待したい。(この項、終わり)

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