第1038回 ワールドカップ予選回顧 (6) 守備陣における最大の新戦力となったウーゴ・ロリス

■新シーズン最初の試合となったフェロー諸島戦

 今回のワールドカップ予選の前半戦で、最後のリトアニア戦を連勝して3勝1分1敗という成績で折り返したフランスであるが、積極的に選手を入れ替えたものの、ヨアン・グルクフ以外はなかなか戦力として定着しなかったことを前回の本連載で紹介した。このシリーズの最初の連載の第1033回で今回の予選をリーグ戦開始からリトアニア戦までの第1ステージ、フェロー諸島戦からリーグ戦終了までの第2ステージ、そしてアイルランドとのプレーオフの第3ステージと3つのステージに分類した。今回から第2ステージ以降での新戦力の状況について紹介しよう。
 リトアニア戦から4月半、この間に選手の所属するクラブではシーズンが終わり、新体制となって新シーズンを迎えた頃にフェロー諸島との試合が行われた。この真夏のフェロー諸島戦で第2ステージが始まるわけであるが、第1ステージと第2ステージの間には6月初めの2日にサンテエチエンヌでナイジェリア戦、5日にリヨンでトルコ戦を行っただけであり、フェロー諸島とのアウエーゲームに臨んだのである。

■予選初先発が最多の4人となったフェロー諸島戦

 弱小国といわれていたフェロー諸島であるが、今予選では守備を固めてカウンターアタックを狙うという戦術が浸透し、失点を抑え、侮れない相手となった。準備のための親善試合もなく、フェロー諸島に乗り込んだフランスは他国同様苦戦し、ようやく1-0というスコアで勝ち点3を持って帰る。しかし、この試合は勝ち点3以上の収穫のある試合であった。直近のワールドカップ予選から4月半、親善試合からでも2月以上のブランクがある。また、リトアニア相手の連勝の後ではあったが、試合間隔が空き、シーズンが変わったことで選手の周囲の環境も変わっているということもあり、レイモン・ドメネク監督は今予選で初先発となる選手を4人も起用し、これは予選全体を通じて最多の数字である。
 GKはそれまでの5試合でフル出場であったスティーブ・マンダンダに変えてウーゴ・ロリスを起用した。懸案のストッパーにはジュリアン・エスクーデをウィリアム・ギャラスのパートナーとする。攻撃陣に関しては右の攻撃的MFにニコラ・アネルカを起用、アネルカは第1戦のオーストリア戦と第2戦のセルビア戦の後半に途中出場しているが、それ以来の出場であり、初先発である。また1トップにはティエリー・アンリの代わりにアンドレ・ピエール・ジニャックを起用する。ジニャックは4月1日のリトアニア戦で右サイドの攻撃的MFのペギー・リュインデュラに代わって出場して代表デビューを果たしており、予選出場2試合目であるが、アネルカ同様初めての先発となる。

■プレーオフでの猛攻をしのいだウーゴ・ロリス

 この試合は、フェロー諸島の分厚い守りに阻まれ、1-0という最小のスコアによる勝利に終わったが、フランスにとっては勝ち点3だけではなく、終盤のクライマックスを迎えるに足る新戦力を確保することができたのである。
 まず、GKのロリスの活躍については改めて紹介するまでもないであろう。ロリスはフェロー諸島戦に出場するまではホームでの親善試合2試合に出場しただけであったが、今予選を通じて守備陣の中では最大の新戦力となった。フェロー諸島戦は、スティーブ・マンダンダに代わるテストとしての意味合いが強かったが、GKとしての活躍の場を見せる機会のない相手であった。しかしながら、ロリスは所属チームのリヨンでの活躍が認められ、9月のルーマニア、セルビアとの連戦でも起用される。セルビア戦では退場処分を受けてしまい、続くホームのフェロー諸島戦ではマンダンダにポジションを譲ったが、グループ最終戦のオーストリア戦では復帰している。そしてプレーオフ2試合での活躍は言うまでもない。

■ジュリアン・エスクーデも加わり、守備陣が安定

 エスクーデもルーマニア戦、オーストリア戦、プレーオフのアイルランドとの第2戦に出場しており、第2ステージ以降6試合においてギャラスのパートナーとして最も起用されたストッパーであった。
 彼ら2人の存在が、終盤のフランスの守備陣に安定感を与えたことは事実であろう。彼らが先発メンバーとして定着して以降の6試合の総失点はわずかに4である。そしてこの6試合の予選の間に1試合も親善試合は組まれておらず、親善試合の中で守備陣が成長していった。それまでのフランスであれば、アイルランドの猛攻の前に次々と失点を重ねていったであろう。(続く)

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