第1074回 スペインと親善試合(5) 本大会3か月前の完敗、ファンの怒り爆発
■「手も足も出なかった」フランス
3月3日に行われたスペインとの親善試合はこれまで紹介してきたとおり、0-2でフランスは完敗した。スコアそのものは2点差であったが、内容的には相当の力の差があることが露呈してしまった。
試合展開は前回の本連載で紹介したとおりである。試合開始から20分過ぎまではフランスは運動量も落ちず、スペインに対して鋭いカウンターアタックを仕掛けていた。ところが21分にビジャに先制点を奪われてから、フランスはまったくゲームを作ることができなかった。残り70分はスペインが試合を支配し、フランスに得点の気配はなかった。アイルランドとのプレーオフではティエリー・アンリの手が出て南アフリカ行きのチケットをつかんだが、今回のスペイン戦では「手も足も出ず」、惨敗となった。
■1992年のブラジル戦以来のホームでの惨敗
これまでフランスが今回のスペイン戦のように惨敗を喫したことがないわけではない。例えば、一昨年の欧州選手権のオランダ戦、2002年ワールドカップの際のデンマーク戦などは、思い出したくはないがその例であろう。しかし、これらの試合は欧州選手権やワールドカップの本大会での試合であり、中立地での一発勝負という特殊な環境下で行われた試合である。フランスにとってホームゲームで惨敗と言うと1992年8月に行われたブラジルとの親善試合までさかのぼらなくてはならない。1993年11月17日のブルガリア戦は悲劇的な試合であったが、試合内容的にはフランスが優位であった。
この1992年夏のブラジル戦はフランス代表にとっては恒例の夏の親善試合であり、1990年のワールドカップで優勝した世界チャンピオンをパルク・デ・プランスに迎えて行われた。この時もブラジルが試合を支配し、フランスは手も足も出ずに0-2で敗れる。
18年前のブラジル戦との共通点はスコアだけではなく、相手が世界王者、欧州王者と言うタイトル保持国であったということがあげられる。
■観客が相手に歓声を上げたブラジル戦
一方、大きく違う点は2つある。まず、観客の反応である。ブラジル戦はブラジルのすばらしい試合運びにパリの観客が大きな歓声を上げ、ブラジルイレブンがパス回しをするたびに「オーレ」という掛け声がかかった。ところがスペイン戦はサンドニの観衆はフランスに対しブーイングを浴びせたのである。
観客がスペインのすばらしい試合運びに拍手を送るのではなく、フランスの情けない試合内容を責めたということは、重要なことである。ファンが現在のフランス代表と言うチームにそれだけ失望をしているということであろう。この失望の原因は以下に述べる2番目の相違点とも関連する。
■厳しい予選を経験しても上がっていないチーム力
この2番目の相違点は、試合が行われた時期である。ブラジル戦が欧州選手権本大会明けの新チーム始動の試合だったのに対し、スペイン戦はワールドカップを3か月後に控えチームがある程度仕上がっていなくてはならない時期に行われた試合であった。2008年の欧州選手権でグループリーグで敗れてしまったフランスは、それほど大きなメンバーの変更もなく、今回のワールドカップ予選に挑んだ。批判の渦巻く中で低支持率のレイモン・ドメネク監督は続投し、ついにワールドカップを迎えることになるのである。多彩なタレントを有するフランスがこれほど予選突破に苦労してきたのはドメネク監督の力量不足であるとファンだけではなく、一部の選手も思っていることである。そして試合のたびにファンは不満を抱えながらも、予選突破を果たしてしまう。結果を出したドメネク監督への怒りが収まったかに見えたが、予選突破後初めての試合は悲惨な結果に終わった。
予選で苦しめば苦しむほど、チームの力は上がっているはずである。1996年欧州選手権のチームがそうであった。負けはしなかったものの、スコアレスドローが続き、ファンはやきもきしたが、この苦しい予選でチームが成長し、イングランドでは準決勝に進出し、2年後のワールドカップ優勝のベースとなった。満員の地元ファンはそのときと同じシナリオを期待したであろう。しかし、スペイン戦は無様な内容となり、ファンの怒りが爆発したのである。
結局、2008年の欧州選手権以降、フランスは格上のチームとは2回(昨年のアルゼンチン戦と今回のスペイン戦)しか戦っておらず、いずれもホームで敗れており、南アフリカでの苦しい戦いが予想されるのである。(この項、終わり)