第96回 アジアで活躍したフランスのクラブの選手(8) 楽しみなシーズン開幕

■3大会でファイナリストを生んだパリサンジェルマン

 前回の連載ではフランスのクラブに所属する選手が5大会連続して決勝に出場したことを紹介したが、このファイナリストの系譜を考える上で忘れてはならないのが首都にあるパリサンジェルマンというクラブである。1990年のイタリア大会では準優勝に終わったアルゼンチンのガブリエル・カルデロンがいた。1994年大会で優勝したブラジルにはベンチから戦況を見つめたライーがおり、今大会のブラジルのロナウジーニョとあわせると今までに3回の大会でファイナリストを輩出している。地元開催・地元優勝の1998年大会はパリサンジェルマンの選手がいなかったが、実はGKでファビアン・バルテスの控えのベルナール・ラマは大会の半年前にパリサンジェルマンからイングランドのウエストハム・ユナイテッドに移籍し、大会終了とともにパリサンジェルマンに復帰している。もしもラマがそのままパリサンジェルマンにとどまっていたならばパリサンジェルマンは4大会連続してファイナリストを送り出していたのである。

■56人中31人が決勝トーナメント進出

 ファイナリストだけではなく、決勝トーナメント進出というレベルで考えると今回フランスリーグから出場した56人の選手のうち31人。国別で見てもちょうど半分の8チームが決勝トーナメントに進出している。ただ単純に各リーグ別の決勝トーナメント進出の比率を比較するならば、これはそれほど誇るべき数字ではない。例えば、日本のJリーグからは今回のワールドカップに日本、韓国、スロベニアの3か国の25人が出場しているが、そのうち24人が決勝トーナメントに進出しており、その数字は他のリーグの追随を許さない。

■国内の上位チームにワールドカップ出場選手が在籍

 しかしながら、フランスリーグの素晴らしさはその層の厚さ、すなわち選手の分布するチームの多さにある。日本のクラブでワールドカップに選手を送り込んだのは10チームであるが、フランスについては、22チームに分散している。22チームの内訳は1部リーグ17チーム、2部リーグ4チーム、3部リーグに当たるナショナルリーグ1チームである。1部リーグの17チームのうちストラスブール、ルアーブルの2チームは今季2部から1部に昇格し、逆に2部リーグのうち2チーム(メッス、ロリアン)については逆に1部リーグから2部リーグに降格した。つまり、フランスサッカーの上位を占めるチームにはワールドカップに出場する選手が所属しており、逆にワールドカップに出場する選手はフランスの上位チームに集中している。唯一の例外はナショナルリーグのマルティーグに所属するチュニジアのスリム・ベン・アシュールであるが、マルティーグは昨年まで2部リーグに所属し、ベン・アシュール自身も昨シーズン途中にパリサンジェルマンから移籍してきている。

■多彩な国籍の選手の集団であるクラブ

 また、各クラブのワールドカップ出場選手を見てもその国籍は多彩である。ボスマン判決以前は外国人枠を同国籍の選手で固めたり、外国人監督の場合は同じ国籍の選手を集めたりしていたが、それは大きく変わっている。日本のクラブで多くのワールドカップ組を抱えるのは鹿島アントラーズの6人、清水エスパルスの4人が代表的であるが、この両チームからワールドカップに出場したのは全員日本人の選手であり、複数の国の代表選手を抱えているチームはジェフユナイテッド市原(韓国1人、スロベニア1人)、柏レイソル(日本1人、韓国2人)、セレッソ大阪(日本2人、韓国1人)の3チームだけである。
 一方、フランスのクラブについては、最多は鹿島アントラーズと同じ6人の選手が所属しているモナコであり、5人で続くのがランスとマルセイユ、4人はパリサンジェルマン、ボルドー、リヨン、スダン、ストラスブールと5チームが並ぶ。3人いるのはメッス、オセール、2人になるとモンペリエとレンヌ。それ以外の10チームから1人ずつワールドカップのメンバーに登録されている。また、ワールドカップに出場した選手が複数いるチームについては、その選手の国籍が多岐にわたっていることも特徴である。例えば、モナコの6人の国籍を見てみるとセネガルが2人であとはドイツ、ポーランド、アルゼンチン、チュニジアが1人ずつであり、5か国にわたり、四大陸に分散しているのである。ランスこそ5人のうちの4人がセネガル代表であるが、マルセイユは5人がいずれも違う国である。複数の選手がワールドカップに出場したチームは12チームあるが、2人のワールドカップ出場選手がいずれもセネガル代表であるレンヌを除く11チームは、複数の国の代表選手が名を連ねているのである。日本ではフランス代表を多民族の集団と評されているようであるが、フランスの各クラブこそ多彩な国籍の選手の集団である。
 さて、シーズンの開幕は8月2日のガンガン-リヨン戦で開幕する。昨季1部リーグに所属していたチームの中で唯一ワールドカップ出場選手がいなかったガンガンが、昨季の覇者リヨンを迎えるのである。今季もまた長い戦いが楽しみである。(この項、終わり)

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