第1142回 どん底からの再出発、ノルウェー戦(5) 明日への光明が見えた価値ある敗戦
■ハテム・ベンアルファ、デビュー戦以来のゴールで先制
ローラン・ブラン監督の初陣は、ギヨーム・オラオ、アディル・ラミ、ロイック・レミーがヘディングでゴールを脅かしながら前半は無得点に終わった。後半が始まる段階で、3人の選手を入れ替える。レミー、シャルル・エンゾグビア、ムッサ・シソッコが退き、ハテム・ベンアルファ、ジェレミー・メネス、ラッサナ・ディアラがピッチに入る。ベンアルファは一昨年10月のチュニジア戦以来、ラッサナ・ディアラは今年3月のスペイン戦以来の代表戦である。そしてメネスはこれが代表デビューとなる。
ほぼ2年ぶりに代表のユニフォームを着たベンアルファが出場早々、オスロの観客を沈黙させる。48分に30メートルの位置から左足で強烈なロングシュート、ボールの勢いにノルウェーのGKは何もすることができず、先制点をあげる。フランスが先制点を記録したのは昨年11月のアイルランドとのプレーオフの第1戦(アウエー)以来のことで9試合ぶりのことである。そしてベンアルファはこの試合が代表出場8試合目で2得点目である。ベンアルファの代表初ゴールは代表にデビューした2007年10月13日の欧州選手権予選のフェロー諸島戦でのことであり、ほぼ3年ぶりにゴールをあげた。
■ノルウェー、エリック・フセクレップの2点で逆転勝利
ベンアルファのゴールで勢いづくかと思われたフランスであるが、先制点の3分後には同点に追いつかれてしまう。右サイドのFKからエリック・フセクレップがオラオに競り勝ってボレーシュート、フランスGKのステファン・ルフィエも触ったが、両手をすり抜けてゴールネットを揺らす。
さらに71分、久しぶりに試合に出場したラッサナ・ディアラの緩慢なプレーもあり、フランスのパスがセンターサークル付近でフセクレップにインターセプトされる。フセクレップはゴールに一直線、フランスの2人のDFの間を中央突破、GKをかわして無人のゴールに逆転の一撃を決める。
フランスは代表デビューとなるヨアン・カバイエを含む3人を交代させて、ゴールを狙ったが、結局1-2で敗れてしまう。
■18年ぶりの3連敗、10年ぶりの逆転負け
この試合はいろいろな記録を作ってしまった。まず、例年8月あるいは7月末にフランス代表は親善試合を行ってきたが、フランスが負けるのは1992年夏のブラジル戦以来18年ぶりのことである。また同じ18年ぶりの記録としては3連敗したことである。フランスは1992年の欧州選手権はグループリーグで敗退したが、その最終戦のデンマーク戦で敗れ、夏の親善試合でブラジルに完敗する。そして9月に始まったワールドカップ予選はアウエーでブルガリアに敗れ、3連敗を喫する。今回もワールドカップでメキシコ、南アフリカに連敗、このノルウェー戦の敗戦で3連敗となった。
また、この試合、フランスは久しぶりに先制したが、結局逆転負けしている。フランスが先制点をあげた試合で負けたのは実に10年ぶりのことである。2000年の欧州選手権のグループリーグ最終戦、すでにフランスは決勝トーナメント進出を決めており、メンバーを落としてオランダと対戦したが、この時は先制点をあげながら2-3と逆転負けしている。フランスの絶頂期は1998年から2000年にかけてと言われるが、その峠を過ぎた過去10年間ですら、逆転負けをしたことはなかったのである。
■黒星デビューの新監督も胸を張る試合内容
新監督が初陣で黒星を喫したのも1992年の欧州選手権後に就任し、上記のブラジル戦でデビューしたジェラール・ウリエ以来のことである。ウリエの前任のミッシェル・プラティニも黒星(1988年11月のワールドカップ予選のユーゴスラビア戦)であったが、ウリエ以降の監督は、エメ・ジャッケはイタリアに勝利、ロジェ・ルメールはオーストリアと引き分け、ジャック・サンティーニはチュニジアと引き分け、そして前監督のレイモン・ドメネクもボスニア・ヘルツェゴビナと引き分けている。
このように記録ずくめの敗戦でスタートしたブラン体制のフランス代表であるが、試合内容は悪くなく、またメンバーの平均年齢は23.5歳と6年前のドメネク前監督の初陣より2歳若く、今回のメンバー選考の経緯も考慮すれば下を向くことはないのである。(この項、終わり)