第1163回 ルーマニア、ルクセンブルクと連戦 (4) ルーマニア、ルクセンブルクと連戦
■フランスに40万人居住するロマ人
2試合を消化して3位のフランスが5位のルーマニア、6位のルクセンブルクと連戦するわけであるが、この三国はちょっとした政治問題に揺れている。それはフランスのロマ人強制送還問題である。ロマ人とは、ジプシーと呼ばれる定住地を持たない移動型民族のうち、中東欧に居住する民族を指す。主にルーマニア、ブルガリアで暮らしているが、移動型民族であるからフランスにも約40万人が居住しており、西欧では最大の数である。そしてフランスに居住するロマ人のほぼ95%はフランス国籍を取得しており、フランス国内のバラックやキャンピングカーで生活している。
■ロマ人強制送還を決めたニコラ・サルコジ大統領に、内外から反発
このフランス国内のロマ人に対し、ニコラ・サルコジ大統領は彼らの生活が犯罪の巣となっているという理由で本国への強制送還を決定した。前世紀初頭、西欧諸国ではいわゆるジプシーに対する弾圧があり、フランスでも1912年にジプシーに対し「人体鑑識手帳」を交付し、ドイツではナチスがロマ人を収容所に送り、ユダヤ人以上に厳しい弾圧を行っている。そのような西洋史の負の歴史を再現するサルコジ大統領に対し、フランス国内からだけではなく、EUや国連からも非難の声が集まった。中でもEUの司法・基本権・市民権担当であるルクセンブルク出身のビビアン・レディング副委員長はサルコジ大統領に対し、「ロマ人をルーマニアやブルガリアに強制送還することは第2次世界大戦中のユダヤ人強制送還に似ている。第2次世界大戦は終わったと思っていた」と発言、これに対しサルコジ大統領も負けてはいない。「フランスを著しく傷つける発言、短絡的な発想、フランスを傷つけようとする侮辱的な発言に、世界中の国家元首たちがショックを受けている」とやり返している。
このようにロマ人を強制送還させたフランスは、ロマ人の多く住むルーマニア、そしてフランスの政策を批判したEUの副委員長の出身であるルクセンブルク、と連戦することになったのである。
■今年に入って1勝2分3敗という成績のルーマニア
さて、予選開始前は第1シードのフランスと第2シードのルーマニアという対戦であるが、両チームの今年の戦績は芳しくない。フランスは今年になってから10試合戦っているが、2勝2分6敗と大きく負け越している。
一方のルーマニアは昨年10月にワールドカップ予選が終わってから、11月には、ワールドカップ予選でルーマニア同様敗退したポーランドとアウエーで戦い勝利している。しかし、そこからチームとしての空白期間が半年あり、今年最初の試合は5月29日のウクライナとのアウエーの親善試合、この試合を2-3と落とし、6月初めにホームで連戦し、マケドニアに敗れ、ホンジュラスに勝利している。このホンジュラス戦が今年に入って唯一の勝利であり、8月の親善試合はトルコとアウエーで戦い0-2と敗れて、ワールドカップ予選が開幕する。ワールドカップ予選ではすでに紹介したとおりアルバニア、ベラルーシと引き分けている。結局ルーマニアの今年になってからの戦績は1勝2分3敗というものである。
このようにフランスもルーマニアも上位シードにふさわしくない戦績でこの1戦を迎えなくてはならず、この試合で勝利して浮上のチャンスを作りたいところであろう。
■ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で光の見えたフランス
ルーマニアとの比較でいうならば、6月のホンジュラス戦で勝利してから、1回も勝利していないルーマニアよりも、一番最近の試合であるボスニア・ヘルツェゴビナ戦で勝利し、南アフリカでのワールドカップでの内紛と惨敗から続く長いトンネルから抜け出したかに見えるフランスのほうが有利かもしれない。
この期待感もあり、スタッド・ド・フランスで行われる今年最後の試合となるルーマニア戦は前売り段階で7万4000枚のチケットが販売された。これに加え当日は約5,000枚のチケットが販売され、3月3日のスペイン戦の79,021人を上回る79,299人が集まったのである。(続く)