第1215回 王国ブラジルと対戦 (2) 分水嶺となった1998年ワールドカップ決勝戦
■サッカー王国ブラジルとの初対戦
ブラジルがサッカー王国であることに対して、異論をはさむ余地はないであろう。これまでのブラジルサッカーの実績を考えてみれば、王国に値する唯一の国であると言えよう。このサッカー王国とこれまでにフランスが対戦したのは13回、フランスにとっては欧州大陸以外で一番多く対戦している国である。
フランスとブラジルの初対決は1930年のことである。1930年というとサッカーファンの皆様は第1回のワールドカップで戦ったかと思われるがそうではない。またワールドカップ前の親善試合かというとそうでもない。第1回のワールドカップはウルグアイで開催され、13チームが参加したが、欧州からはフランス、ユーゴスラビア、ベルギー、ルーマニアの4か国が参加しただけであった。フランスは歴史に残るワールドカップの開幕戦に登場し、メキシコに勝利したが、アルゼンチンとチリに連敗し、グループリーグで敗退する。一方のブラジルもユーゴスラビアに敗れ、ボリビアに勝利したが、グループリーグ首位チームのみに準決勝へのチケットが与えられていたため、グループリーグで敗退する。
当時は航空路も整備しておらず、欧州勢は長い船旅で大西洋を渡り、南米の地での戦いに挑んだ。フランスは7月19日に全日程を終えたが、その後ブラジルに移動し、8月1日にリオデジャネイロでブラジルと親善試合を行ったのである。この試合はブラジル協会からは公式試合と認められていないが、ブラジルが3-2で逆転勝利を飾っている。これがその後名勝負を繰り広げることになるフランスとブラジルの初対決なのである。
■神様ペレのデビュー戦で惨敗した初の公式戦での対戦
そして公式戦での初対決は1958年のスウェーデンでのワールドカップ準決勝、王様ペレが世界に強烈な印象を残した試合である。ブラジルは、ペレの活躍で5-2というスコアでフランスに勝利し、決勝でもスウェーデンに5-2で完勝し、6回目の出場で初優勝を飾り、王国への道の第一歩を記録した。この準決勝での対戦が一方的な試合だったことが、その後のフランスとブラジルの力関係に大きく影響を及ぼす。1978年のパリでの親善試合で1-0と勝利しただけで、ブラジルがフランスに対して圧倒的に優位な戦績を残す。
■ワールドカップ決勝で3-0と完勝したフランス
この一方的な力関係に風穴を開けたのが、1998年ワールドカップの決勝であった。前評判が決して高くなかったフランスは決勝に進出する。決勝トーナメントに入ってからのフランスは1回戦はパラグアイに延長ゴールデンゴールで勝利、準々決勝はイタリアにPK戦で勝利、そして準決勝はクロアチアに逆転勝利という内容で、どこで負けてもおかしくなかった。一方のブラジルは王国らしく危なげなく決勝に進出してきた。地元開催とはいってもブラジルが優位であろうという予想であったが、フランスが3-0と圧勝し、ワールドカップ初優勝を飾る。
■ワールドカップ以降の対戦成績はフランスの2勝1分
このワールドカップ初優勝はフランスの黄金時代を招くことになるが、ブラジルとの対戦成績もこの試合を境に逆転する。その後、フランスとブラジルは3回対戦するが、フランスの2勝1分であり、フランスとブラジルの力関係は逆転した。2001年に韓国の水原でのコンフェデレーションズカップ準決勝での対戦は両チームとも主力選手を欠いていたが、フランスが2-1と勝利し、決勝へコマを進めて日本を破り優勝する。2004年には欧州選手権の直前にフランス代表結成100周年を記念して親善試合がスタッド・ド・フランスで行われ、スコアレスドローとなった。
そして直近の対戦は2006年ワールドカップの準々決勝である。この大会もフランスの前評判が高かったわけではない。そしてグループリーグはスイス、韓国と引き分け、2試合で勝ち点2というピンチであったが、トーゴに勝利し、2位通過する。ところが決勝トーナメントではスペインに3-1と完勝し、準々決勝でブラジルと対戦する。スコアこそ1-0と僅差であったが内容的には完全にフランスが圧倒しており、フランスは準決勝でも黄金世代最後の大会となるポルトガルを下し決勝に進出、イタリアにPK戦で敗れる。
このように1998年のワールドカップ決勝が両国の力関係を変えたのである。(続く)