第1246回 リール、フランスカップを56年ぶりに獲得
3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■リーグ戦とフランスカップだけが残されたタイトル
今季のフランスリーグで前半戦を首位で折り返したのは北部の古豪リールであった。リールは後半戦もそのトップの座をキープし、本連載第1241回で紹介したとおり、第32節で直前に行われたリーグカップ優勝の勢いに乗るマルセイユに首位の座を奪われるまで、順位表の一番上に名前を連ねていた。また、フランスカップにおいても本連載第1238回で紹介したように、リールは準決勝でニースを下し、決勝に進出している。
リールはヨーロッパリーグでは本連載第1219回と第1221回で紹介したとおり、決勝トーナメントの1回戦のPSVアイントホーヘン(オランダ)に敗れてしまったが、年が変わってからのシーズン後半のフランスサッカーで最も注目を集めたチームとなったことは間違いない。
今季のフランスサッカーは、欧州の舞台から強豪チームも春先にすべて姿を消し、代表の試合も3月末以降はないことから、4月以降のフランスのサッカーファンの関心は国内タイトル争いに集中した。その中で、まずマルセイユがリーグカップを昨年に続いて獲得し、フランスリーグとフランスカップの2つのタイトル争いがファンの関心事であり、リールは両タイトルを獲得する一番手の位置にある。
■リーグ戦上位同士の決勝となったリール-パリサンジェルマン戦
リールは、フランスカップ決勝進出を決めた直後に日程をスライドさせて行った第32節でロリアンと引き分けてしまい、マルセイユに首位の座を譲ったが、第33節では最下位のアルル・アビニョンに5-0と大勝、マルセイユはオセールと引き分けたため、リールは首位の座に返り咲いた。
フランスカップ決勝は5月14日に行われた。この段階でリーグ戦は第35節まで消化され、残る試合は3試合である。第35節終了時点のリーグの成績は1位リール(勝ち点69)、2位マルセイユ(65)、3位リヨン(59)、4位パリサンジェルマン(58)、5位レンヌ(53)となっており、フランスカップの決勝はリーグ1位と4位という上位陣同士の対戦である。
■リーグ終盤戦を控えた両チームの戦い
リールはマルセイユとの勝ち点の差を4に広げ、欧州カップの出場権を既に確保しているが、まだリーグチャンピオン争いは最終節までもつれ込む可能性は大きい。
一方のファイナリストのパリサンジェルマンであるが、チャンピオンズリーグ予備戦に出場できる3位との勝ち点差はわずか1であるが、カップ戦のスペシャリストとしてフランスカップを獲得し、その勢いでチャンピオンズリーグ出場権を得たいところである。パリサンジェルマンはフランスカップに優勝しても4日後にボールドーでのリーグ戦が控えていることから、優勝祝賀会は行わないことを発表している。
2年連続9回目の優勝を目指すパリサンジェルマンに対し、リールは6度目の優勝をかけて戦うことになるが、リールが最後に優勝したのは今から56年前、まだパリサンジェルマンと言うクラブが発足していなかった時代である。
■試合終盤にサスペンス、リールが56年ぶりの優勝
8万人の観衆で埋まったスタッド・ド・フランス、試合前には今季のフランスカップで台風の目となったシャンベリーがファンの前で紹介される。そしてほとんどは地元パリサンジェルマンを応援している満員の観衆の前で試合はキックオフされた。
前半はカップ戦の決勝らしく、緊迫しながらも両チームとも攻め手にかける低調な試合内容となり、ノーゴールのままハーフタイムを迎えた。後半開始早々、パリサンジェルマンはベテランの主将クロード・マケレレをベンチに下げ、決勝では負け知らずのアントワン・コンブアレ監督は勝負に出る。また、負傷のためベンチスタートだったメブート・エルディングも投入する。しかしながら、後半も前半のリズムが続く。そして試合は一気に終盤に動いた。79分にリールはルドビック・オブラニアックをCFのムーサ・ソーに代わって投入し、87分に得たFKをオブラニアックが直接ゴールに決めて先制する。
さらにその直後に、パリサンジェルマンのキックオフボールを奪い、一気に攻め込んだリール選手がGKグレゴリー・クーペに倒される。万事休すと思われたが、このPKをクーペがストップし、パリサンジェルマンはピンチを切り抜ける。ロスタイムは4分と表示されたが、リールは守り切り、実に56年ぶりのフランスカップ優勝を果たしたのである。(この項、終わり)