第1276回 2011年チャンピオンズトロフィー(2) アンドレ・アユーの活躍でマルセイユが劇的勝利

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■フランスで活躍するモロッコ人選手

 今年のチャンピオンズトロフィーはモロッコのタンジェで行われ、前回の本連載ではアフリカ出身の選手として初めて欧州で活躍したラルビ・ベンバレクについて紹介したが、モロッコから多くのサッカー選手がフランスに渡り活躍している。
 現在のフランスリーグで活躍しているモロッコ人選手の代表と言えば、ナンシーのユースフ・ハジであろう。1998年のアフリカ最優秀選手に選ばれたムスタファ・ハジの弟であり、兄のムスタファも現役時代はナンシーに所属していた。またナンシーにはミカエル・クレティアンも所属している。クレティアンはナンシー生まれであり、アンダーエイジのフランス代表にも選ばれているが、モロッコのフル代表を選んでいる。また若手ではモンペリアのユーネス・ベルアンダもアビニョン生まれであるが、フル代表としてモロッコのユニフォームを選択している。
 フランスリーグを離れてしまったが、現在欧州で最も活躍している選手はアーセナル(イングランド)のマルーアン・シャマフであろう。ボルドーで活躍したことは本連載でもしばしば取り上げてきたが、昨年の夏にアーセナルへ移籍し、早くも11得点を記録している。

■ワールドカップ4回出場、開催招致にも熱心なモロッコ

 モロッコ代表と言うと日本の皆様は1964年のオリンピックでハンガリーに0-6と大敗したことから、あまり強くないという印象をお持ちかもしれないが、ワールドカップ出場4回を誇る北アフリカの実力国であり、ワールドカップ開催に複数回立候補したこともあり、サッカー熱は高い。そして旧宗主国であるフランスのサッカーとは縁が深いことから、チャンピオンズトロフィーに対する地元の関心は非常に高い。
 タンジェのグランドスタジアムは今年4月26日にオープンしたばかりで、2006年あるいは2010年のワールドカップ開催に向けて建造されたものである。ワールドカップ招致には成功しなかったが、2015年や2017年のアフリカ選手権がモロッコ開催となった場合は熱戦が繰り広げられるであろう。

■新シーズンを占うリールとマルセイユの戦い

 そしてシーズン開幕を控えたリールとマルセイユの試合は、リーグ戦の覇権の行方を占う試合ということでフランス国内でも注目を集め、代表チームのローラン・ブラン監督も海を渡って視察に訪れた。二冠を獲得したリールはフランス代表のヨアン・カバイエがニューカッスル、コートジボアール代表のジェルビーニョはアーセナルへとそれぞれイングランドのクラブに移籍してしまった。フランスで活躍した選手がイングランドへ移籍してしまうことはフランスサッカーの構造的な課題であろう。
 一方のマルセイユはアルゼンチン代表のガブリエル・ハインツがイタリアのASローマへ、ナイジェリア代表のタイウォ・タイエがACミランへと移籍したが、ボルドーからアルー・ディアラを獲得している。

■終盤のゴールラッシュを制したマルセイユのアユー兄弟

 試合はこの新しいスタジアムに集まった3万5000人のファンを満足させる内容となった。最初に電光掲示板が動いたのは9分のことであった。右サイドのFKにバルモンが合わせ、先制点。前半を1-0とリードして折り返したリールは後半に入っても追加点を奪う。57分にアザールはアルー・ディアラをかわし、強烈なシュートがネットを揺らし、2-0とリードを広げる。
 ここからは昨年のワールドカップでも活躍したガーナ代表のアンドレ・アユーの時間帯になった。アンドレ・アユーは71分に1点差に詰め寄るゴールをあげるが、リールも72分にムッサ・ソーがゴールをあげ3-1と突き放す。85分にマルセイユのジェレミー・モレルが得点をあげてからは信じられない展開となった。87分にマルセイユのロイック・レミーが同点ゴール、さらに90分には弟のジョルダン・アユーが倒されて得たPKをアンドレ・アユーが決めて、ついにマルセイユは逆転する。ところがこのペナルティで退場者をだし1人少なくなったリールは、92分に長身ストッパーのマルコ・バサがゴール前に上がり、ヘディングで同点ゴール、試合はPK戦かと思われたが、タイムアップの笛は鳴らない。
 熱戦に終止符を打ったのはアユー兄弟だった。95分にジョルダン・アユーがまた倒され、PKをアンドレ・アユーが蹴る。チャンピオンズトロフィー5回目の出場となるミカエル・ランドローは止めることができず、5-4というスコアでマルセイユは2年連続の勝者となったのである。(この項、終わり)

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