第172回 マルタ、イスラエルと連戦(1) 主将マルセル・デサイー、メンバーからはずれる
■欧州選手権予選が再開
昨年秋に始まった2004年欧州選手権の予選、フランスは本連載でもたびたび紹介したようにこれまで3連勝。ポルトガルに向けて順調な足取りに見えたが、先月のチェコ戦での情けない敗戦で暗雲が立ち込めた。
5月ぶりに欧州選手権予選が再開し、フランスは3月29日にホームでマルタ、4月2日にアウエーでイスラエルと連戦する。マルタ戦はスタッド・ド・フランスではなくランスのフェリックス・ボラール、そしてイスラエル戦は昨年来のイスラエル情勢の緊張によりイスラエル国外での開催となり、イタリアのシチリア島のパレルモで行われる。
■マルセル・デサイーとエマニュエル・プチが落選
中3日の連戦を戦う20人の代表選手が18日に発表された。常に新戦力をメンバーに加え、新陳代謝を行っているジャック・サンティーニ監督であるが、今回のメンバーについては新たに加わったメンバーではなく、リストから外れたメンバーが大きな衝撃を与えた。
ディディエ・デシャンと並ぶフランス代表103試合出場という記録を持ち、前回の欧州選手権終了後から主将を務めていたマルセル・デサイーの名前がリストになかったのである。そしてデサイーのチェルシーでの同僚であるエマニュエル・プチにも同様にドーバー海峡を渡るチケットが与えられなかったのである。
デサイーが2月12日のチェコ戦以来、調子を崩したことがメンバー落ちの理由である。チェルシーの試合にもほとんど出場せず、3月16日のウエスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦で負傷したグレアム・ルソーに代わり終了間際の8分間出場したくらいである。フランス代表においてデサイーは史上最多となるフランス代表歴を誇り、先代主将のデシャンの跡を継いで常に彼の左腕には誇り高きキャプテンマークがあるだけではない。ストッパーというポジションには2人が必要であり、サンティーニ新体制になってからフィリップ・メクセス、ウィリアム・ガラスという才能に恵まれた若い2人がしばしば起用されているが、やはり経験の必要なポジションであり、デサイーが経験の少ない選手をリードするという構図は当分続くであろうと見られていた。ところがサンティーニ監督はデサイーを招集しなかった。もちろんデサイー自身のコンディションもあるが、やはり先月のチェコ戦のショックが尾を引いているのであろう。
■ベテラン選手のカムバックにブレイクスルーを託したミッシェル・プラティニ
ブレイクスルーのためにドラスティックなメンバーを起用した代表監督と言えば、1988年から1992年にかけて監督を務めたミッシェル・プラティニが思い出される。1990年のイタリア・ワールドカップ予選で大苦戦し、アンリ・ミッシェルの更迭後に代表監督に就任したプラティニは、初陣となる1988年11月19日のアウエーでのユーゴスラビア戦で、予選落ちした1988年欧州選手権予選のノルウェー戦以来1年5か月ぶりの出場となるジャン・ティガナを起用、しかしながら得点の取り合いの末2-3と敗れる。ティガナはこの試合を最後にラ・マルセイエーズをピッチで歌うことはなかった。危機感一杯で革命200周年となる1989年を迎える。そして革命200周年に沸きつつも、サッカーファンはイタリア行きを心配する1989年2月7日のアイルランドとの親善試合ではパトリック・バティストンを1年6か月ぶりに起用する。バティストンはアイルランド戦以降、3試合に出場したが、勝ち星をあげることなく青いユニフォームを脱ぐ。
この2人の起用は青年監督にとって苦い経験に終わったが、逆に現在パリサンジェルマンの監督として渦中の人となっているルイス・フェルナンデスの場合は成功した。イタリア行きの消えた1990年3月28日、ハンガリーとの親善試合でプラティニはフェルナンデスをほぼ2年ぶりに起用。古豪相手にアウエーで3-1と勝利し、フェルナンデスはその後代表に再定着する。2年のブランクの後は1992年欧州選手権予選、本大会など16試合に出場する活躍を見せた。
このようにプラティニはベテラン選手をカムバックさせるという手法をとったが、奇しくもこの3人はフランス代表の主将経験者であり、カムバック後はキャプテンマークをつけることはなくともチームを精神的に支えたのである。
■注目を集めるキャプテンマークの行方
さて、デサイーとともにメンバーから外れたのはプチである。実はデサイーはワールドカップ後も主将として全試合に先発してきた。この6試合の中でデサイーがピッチから姿を消したのは昨年11月20日のユーゴスラビア戦の後半だけある。デサイーはポジションをメクセスに譲ったが、キャプテンマークはプチに譲っているのである。昨年のワールドカップでもグラウンド内の精神的支柱の不在が問題となった。デサイーもプチもいない中で誰がキャプテンマークをつけるのであろうか。(続く)