第2030回 アルバニアに苦戦しながら勝利(2) 90分過ぎの2得点で決勝トーナメント進出を決定
平成28年熊本地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。お亡くなりになった方々に、謹んで哀悼の意を表します。 この地震が1日でも早く収まることと、被災地の皆様の安全とご健康をお祈り申し上げます。
■欧州の中堅国になったアルバニア
欧州選手権、ワールドカップという主要国際大会の本大会に初出場するアルバニア、本連載でも紹介した通り、予選はグループIに入り、第5シードであったが、ポルトガルに次いで2位となる。またフランスとも親善試合を2試合戦ったが、一昨年11月のアウエーでの試合は1-1の引き分け、昨年の6月のアルバニアでのホームゲームでは1-0で勝利している。かつては欧州最貧国であったアルバニアも現在では中堅の力をつけてきている。
■大黒柱のロリック・カナは出場停止
アルバニアというと本連載の読者の皆様であるならばまずロリック・カナの名前を想起されるであろう。コソボ出身であり、内戦から逃れるためにスイスに移住、父親がスイスのプロチームの選手であったことが一家の運命を救った。ローザンヌのユースチームに所属し、スペイン遠征した際にレアル・マドリッド(スペイン)、アーセナル(イングランド)、パリサンジェルマンのスカウトの目に留まり、アーセナルと契約しようとしたがビザの関係で、契約することができなかった。結局、パリサンジェルマンのユースチームに移籍し、プロ契約をするに至った。そして2005年にはライバルのマルセイユに移籍し、主将も務めた。その後、サンダーランド(イングランド)、ガラタサライ(トルコ)、ラツィオ(イタリア)を経て、現在はナントに所属している。フランスの国籍も有しているカナにとってフランスでの欧州選手権は格別の思いがあるであろう。主将として臨んだランスでのスイス戦、カナは23分と36分にイエローカードを受けて、退場処分となる。スイスには5分に奪われた1点を返すことができず、0-1で敗れたが、手ごたえをつかんだ。しかし、カナはフランス戦は出場停止となる。
■試合を支配するも決定的なチャンスが生まれないフランス
チームの大黒柱を欠くアルバニアに対し、フランスは攻撃陣は左右に20歳コンビのアントニー・マルティアルとキングスレー・コマン、中央は29歳コンビでオリビエ・ジルーがトップ、トップ下にはディミトリ・パイエと好調な2人が控える。
試合はマルセイユで行われる。マルセイユでは12回目のフランス代表の試合であるが、敗れたのはわずか1回、2009年2月のアルゼンチン戦だけである。そしてマルセイユの欧州選手権と言えば1984年大会準決勝のポルトガル戦はいまだに語り草となっている。
そしてこのアルバニア戦も将来に語り継がれる試合となった。フランスはパスをつなぎ、ボールを支配するものの、なかなかラストパスにつながらない。一方のアルバニアは、フランス相手に勝ち点1を奪い取るという意識統一がなされ、カナの抜けた守備ラインは主将を代行したアンシ・アゴーリらがフランスの攻撃を摘み取る。そして圧巻はスタジアムを赤く染めたアルバニアのサポーターである。多くのアルバニア人が政治的あるいは経済的理由でフランスに移住している。まさか母国の代表チームを欧州選手権の本大会で見ることができるとは誰も思わなかったであろう。
フランスは押し気味ながら前半を無得点で終える。後半に入るところでフランスはポール・ポグバを投入、左ウイングのアントニー・マルティアルをベンチに下げる。そして中盤をポグバ、エンゴロ・カンテ、ブレーズ・マツイディの3人で担当する4-3-3システムへの回帰である。システム変更の効果か、フランスは後半の立ち上がりにコマンがヘディングでシュート、わずかに外れる。しかし52分にはアルバニアのシュートがポストをたたくピンチを迎える。
■アディショナルタイムにアントワン・グリエズマンとディミトリ・パイエがゴール
その後も両チーム得点なく、ドローかと思われた90分、フランスはアルバニアのクリアボールを拾い、アディル・ラミがクロスを入れる。ゴール前に飛び込んできたグリエズマンがヘディングでシュート、アルバニアの歴史的勝ち点を奪う。さらにアディショナルタイムの96分にはパイエが追加点を入れる。パイエの古巣であるマルセイユのベロドロームは歓喜する。
2連勝したフランスはこれで決勝トーナメント進出一番乗りを決めたのである。(この項、終わり)