第19回 日本サッカー異質論はどこから(前編)
■当初はあまり注目されなかった2つの試合
たくさんの日本人が首から「チケット買います」という看板を掛けてナントの街でキックオフを待ち、スタジアムの内外で声援を送ったその2日後、ボージョワール競技場では翌日に行われるチリ-カメルーン戦のチケットが約800枚販売された。大会33試合目で初めてチケットの追加販売が行われたのである。結果的にはB組は最終戦の段階ですべてのチームに決勝トーナメント進出の可能性が残されていたため、この試合はグループリーグでも屈指の試合内容となったが、当初はあまり期待されていないカードで、テレビ中継も10分間のダイジェストのみだった。
グループリーグの最終戦は1986年のメキシコ大会から同グループの2試合を同時刻に開始するようになっている。最終戦の時間がずれているとライバルチームの結果を知ってから試合をする方が有利になる。したがってフランス大会でもグループリーグの最後の4日間は16時に2試合、21時に2試合というスケジュールで運営された。同時刻に試合があることはテレビ中継上は好ましいことではないが、二元中継や録画中継で対応している。16時に試合を開始すれば18時には試合が終わり、18時からもう一つの試合の録画中継をすれば20時にはサッカー中継をひとまず終えることができる。フランスでは20時台はニュースの時間と決まっており、再び21時からサッカー中継を行うことができるのである。
■フランスのメディアの日本に対する注目度
フランスでは3つの地上波の放送局を中心に今大会の放映を行ったが、前述のようにどうしてもグループリーグの最終戦だけは無理なスケジュールになる。さらに結果のわかってしまった試合の録画を夕方のゴールデンタイムに中継することは避けたい。このような理由でB組のチリ-カメルーン戦とH組の日本-ジャマイカ戦は地上波ではダイジェストのみの中継ということになってしまった。
チケット詐欺事件も重なり、日本戦のチケット1枚が1万フランという相場がつく一方、現地では、売れ残りのチケットが追加販売される試合と同等と評価され、テレビ中継に値しないような試合と判断されているのが現実である。(フランス以外の欧州の主要国でも日本-ジャマイカ戦は放映されていない)
フランスのメディアでは日本のサッカーはどのように評価されているのだろうか。
まず、出場32か国でもっとも報道される機会が少ない国であったことは事実だ。試合の翌日にようやく片隅に記事を見つけることができる程度である。フランスと同じC組に属するサウジアラビアは別としても、同じアジアの韓国やイランと比べてもかなり少ない。ワールドカップ出場が決定してからも、タイのキングスカップは報道されたが、日本で行われたダイナスティカップやキリンカップは報道されなかった。他の競技と比較しても、今回のサッカーの日本代表チームと長野オリンピックのアイスホッケーの日本代表チームの扱いはそれほど変わらない。
■中田の顔を覚えておこう。川口はハンサムだ。
しかしながら、日本というものが注目されることは少なくない。すなわち、今回のチケット詐欺に巻き込まれたにも関わらず、チケットなしでフランスにやってきた日本人が1万フランでチケットを購入していることが大きく報じられているほか、日本のサポーターが大挙して町中を占拠しているがトゥールーズやナントには試合のチケットだけではなく、ブランド店もなくお金の使い道がなく困っている、といった具合である。
また、試合中のテレビ中継のコメントに関しても中田が映れば「この選手が日本のスターでヨーロッパのスポーツメーカーがスポンサーとなっている。彼が広告に登場するかもしれないので顔を覚えておこう」、川口がファインセーブをしても「彼はハンサムで女性ファンが多い」といった始末。
サッカーの技術、戦術面などについては評価されず、その周辺ばかりが注目されている。すなわち日本は出場国として認識されているのではなく、サッカーを見に来た集団としてしか認識されておらず、イレブンもサッカー選手としての評価を受けていないのである。これは悲しむべき事実であろう。元来フランス人は日本人に対してかなりデフォルメ(誇張)された認識をしている。本質ではない部分がオーバーに表現されて日本サッカー異質論に結びついている。それではいったいこの日本サッカー異質論はどこからくるのであろうか。(つづく)