第22回 国内リーグがフランス・サッカーを支える

■フランス代表には外国でプレーする選手が多かったが・・・

 ワールドカップで見事初優勝を勝ち取った開催国フランス。この栄冠を支えた柱としてフランスリーグを無視するわけにはいかない。
 大会出場22選手のうちフランスリーグに所属する選手はわずか9人で、それ以外の選手の所属するリーグはイタリア7名、イングランド4名、スペイン1名、ドイツ1名となっている。今大会フランスは7試合でわずか2失点と守備能力の高さが評価されたが、守備陣(GK3名、DF6名)でフランスリーグに所属しているのは正GKのファビアン・バルテズ(モナコ)と第3GKで本大会では出場機会に恵まれなかったリオネル・シャルボニエ(オセール)、本大会史上初めてゴールデンゴールを記録したDFのローラン・ブラン(マルセイユ)だけである。
 またフランス伝統の中盤を受け継ぐMFの選手は、登録7名すべてが外国のリーグに所属している。逆に、決定力不足と酷評されたFWは登録6名すべてがフランスリーグの選手である(ただし攻撃に関してもフランスの総得点15は参加国中でトップである)。大会のヒーローとなったジネディーヌ・ジダン、リリアン・チュラム、マルセル・デサイーなど主力選手のほとんどは外国のリーグに所属している。

■トップレベルの選手が外国に流出し始めたのは最近のこと

 今回のワールドカップだけではなく、古くはユベントスのユニフォームを着たミッシェル・プラティニがインターコンチネンタルカップ(トヨタカップ)のため来日したこともあり、フランスリーグはレベルが低く、有力な選手はイタリアやイングランドのビッグリーグに移籍するという構図を描かれる方も多いであろう。実際に、欧州において選手の移籍が自由となったボスマン判決以来、フランスから有力選手が大量に流出している。
 だが、フランスのトップ選手が外国のトップリーグに移籍するのは最近のことである。1982年にプラティニがサンテチエンヌからユベントスに移籍してから、次にトップレベルの選手が外国のリーグに移籍した例は1992年にACミラノに移籍したジャン・ピエール・パパンまで10年を要する。プラティニの場合、イタリア移民の家族であり、外国に移籍というよりは故郷に帰ったととられている。
 ボスマン判決以前は確かに外国人枠などもあったが、フランス人選手はフランスリーグに所属し、契約を更新できなかったベテラン選手が中東やスイスなどの「年金リーグ」に移籍するだけであった。他方、当時から外国のスター選手がフランスリーグで活躍していた。しかし、パパンの移籍とボスマン判決が状況を変えたのである。

■スター選手が外国に移籍してもリーグの観客動員数は過去最多

 それではこの有力選手の外国リーグ移籍がフランスリーグをどのように変えたのか。たしかに、スター選手はいなくなった。だが、その結果、若手選手の活躍の機会が増えた。今回のワールドカップでしばしばツートップを組んだダビッド・トレズゲとティエリー・アンリはともにモナコ所属の20才であるが、オリンピックやワールドユースでの活躍よりもむしろリーグ戦での活躍が評価され代表入りした。トレズゲは昨年のリーグでは18得点をマークし、得点ランキングは21点のステファン・ギバルッシュに続いて2位であった。
 また、従来のマルセイユ、パリサンジェルマン、モナコ、ボルドーといった国内のビッグクラブが国内の有力選手を抱え込むという構図が解消し、優勝争いをするチームが増えた。結局、昨季はランスとメッスが同勝ち点(68点)で並び、得失点差でランスが初優勝した(ランスは得点55、失点30で+25、メッスは得点48、失点28で+20)。ランスにはフランス代表選手はおらず、外国人選手にも今回のワールドカップに出場した選手はいない。(キリンカップのパラグアイ戦で決勝ゴールをあげたチェコ代表のウラジミール・シュミッチェルはランスに所属し、昨季は28試合で7得点と優勝に貢献した)
 また、優秀なDFの国外移籍とも関連するが、1試合あたりの平均得点も2.35と最近では最多である。そのうえ、実力の均衡はアウエーゲームでの成績を上昇させ、年々向上してきたアウエーチームの勝率はついに25%を越えた。また前々回の本連載でも取り上げたフェアプレーの推進は著しく、1試合あたりの警告数(3.65)、退場数(0.18)は年々減少の一途である。
 この結果、スター選手が外国に去っても、当初心配された人気の下降は見られなかった。数多くのクラブで最多観客動員を記録し、リーグ全体としても1試合あたりの平均観客動員数は16,555人となり最多記録を更新した。これまでの記録が前年度の14,201人、フランス人のスター選手が全員国内にいた1990年前後ですら1試合あたりの平均観客動員が10,000人程度ということを考えてみれば、いかにこの数字が多いかおわかりいただけよう。さらにシーズン終盤の第33節は1試合平均で31,111人の観客を動員している。

■欧州三大カップでもフランスのクラブが活躍

 それでは、肝心の成績についてはどうだろうか。有力選手の国外流出でフランスのクラブの地位低下を危ぶむ声が強かったが、欧州三大カップでの成績は上々である。昨季もチャンピオンズリーグではモナコが準々決勝でマンチェスターユナイテッドを破り、フランス勢は欧州三大カップで9年連続してベスト4入り。オセールもUEFAカップでベスト8に入っている。欧州三大カップの成績は指数化され、UEFAのリーグ別のランキングにされる。
 FIFAの国別ランキングと異なり、このランキングは次年度の欧州三大カップの出場チーム数や、予備戦の有無などに関わってくる。このランキングではフランスは2位となり、今年度はUEFAカップに欧州では最多の4チームを送り込むことができた。また、チャンピオンズリーグ、カップウィナーズカップについてもシーズンインして間もない8月の予備戦を免除されることは大きなアドバンテージである。
 さて、2部からナンシー、ロリアン、ソショーを加えて18チームで争われるフランスリーグ、いよいよ8月7日キックオフである。

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