第60回 フランス、シドニー行きを逃す

■欧州ではオリンピックへの関心は低いが・・・

 来年のシドニーオリンピックの男子サッカー競技で、アジアからは日本、韓国、クウェートの3カ国が代表権を獲得した。日本は一次予選から通算12連勝の予選突破で、2大会連続出場となった。日本ではオリンピック予選への関心が高いようであるので、今回はフランスのオリンピック代表の戦いを取り上げたい。
 日本のオリンピック代表監督を兼任するフィリップ・トルシエがまず驚いたことは「日本にプロのサッカーリーグがあること」そして「オリンピック代表の試合に5万人が見に来ること」だったそうである。一般的に欧州ではオリンピック代表に対する注目度はかなり低い。
 しかし、フランスはオリンピック提唱者のピエール・クーベルタンの出身地であること、年齢制限を設けた最初のロスアンジェルス大会で優勝したこと、そして若手育成に力を入れていることから他の欧州諸国よりは注目度も高く、契約型テレビ「Canal+」で放映され、観衆も万の単位には届かないものの、数千人をコンスタントに動員する。

■オリンピック予選を兼ねたU-21欧州選手権

 欧州では、ワールドカップや欧州選手権の予選その他の国際親善試合の前日または同日の夕方に、アンダーエイジ同士の試合が同一国内で行われるのが通例である。来年の欧州選手権の予選とほぼ同じ組分けで、期間も並行して行われたU-21欧州選手権がオリンピック予選を兼ねている。
 すなわち、昨年9月から行われてきたフル代表の欧州選手権とほぼ同じ組分けでU-21欧州選手権も9グループに分かれ、ホームアンドアウェー方式でグループリーグを戦ってきた。「ほぼ同じ組分け」というのは、次の二点でフル代表の欧州選手権とは異なっていたことによる。
 まず第一に、アンダーエイジの代表チームを組織できない国が4か国あるということ。アンドラ(グループ4、フル代表の欧州選手権予選は10戦全敗)、サンマリノ(グループ6、8戦全敗)、リヒテンシュタイン(グループ7、1勝1分8敗)、フェロー諸島(グループ9、3分7敗)である。これらの国は欧州選手権予選ではいずれもグループ最下位の弱小国であるが、今回から「U-21欧州選手権にエントリーしなくても欧州選手権予選にエントリーできる」というUEFAの規制緩和によって参加の道が開けた。人口わずか6万人の小国アンドラはこの恩恵でワールドカップと欧州選手権を通じて初めて予選に参加することができたのである。
 アンドラはフル代表に専念し、成績は10戦全敗(得点3、失点28)だったが、王者フランスをバルセロナでのホームゲームで終了5分まで無得点に押さえ、失点もPKのみという自信を今回の予選初出場で得ることができたのである。日本のJリーグのユース選手権には実力的に劣り、体制の整っていない2部のチームも参加し、1部チームとの間で大差のつく試合が散見されているようであり、今回のUEFAの方針変更は参考となろう。
 そして欧州選手権のホスト国もエントリーし、オランダがグループ6に、ベルギーはグループ9に入っていることが第二点である。

■エスポワール(希望)という名のU-21代表

 U-21欧州選手権は1年強にわたりグループリーグを戦い、各グループのトップ9か国と、2位チームのうち成績の良い7チームの16チームが11月13日と17日にホームアンドアウェー形式で行われるベスト8決定戦に進出した(欧州選手権予選のプレーオフとほぼ同じ)。この勝者8チームが来年の5月末から6月初めにかけて決勝ラウンドを行う。これはセントラル方式で行われ、8か国を4チームずつ2グループに分け、各グループの1位同士で決勝、2位同士で3位決定戦を行う。4位までの国がシドニー行きのチケットを獲得する。
 フランスの所属するグループ4はフル代表の欧州選手権予選とは異なり、フランスとロシアが順調に勝ち星を重ね、フランスが6勝1分1敗でトップ、2位はロシアで6勝2敗。フランスはアウェーでロシアに1-2で敗れ、ウクライナに0-0の引き分け、ロシアはアウェーでフランスに0-2、ウクライナに0-1で敗れたのみと、ホームと下位チームには全勝というホームアンドアウェーのリーグ戦の見本のような結果となった。
 エスポワール(希望)とカテゴリーされるオリンピック代表の監督はレイモン・ドメネッシュ。国立サッカー研修所のスタッフであり、若手発掘には定評があるが、昨年のワールドカップ時に日本の中田英寿のプレーを酷評した男と言えば日本の読者の方もご存じであろう。

■宿敵イタリアとの決戦は荒れた試合となったが・・・

 フランスのベスト8決定戦の対戦相手はイタリア。イタリアを率いるのは1982年のワールドカップ優勝メンバーのマルコ・タルデリ。セリエAの出場経験者4人を中心にグループ1を7勝1分で突破し、優勝候補筆頭と言われる。ベスト8決定戦を前にドメネッシュも力の差を認め、第1戦(ホーム)も第2戦(アウェー)も0-0で引き分け、PK戦を10-9で勝つと公言。
 イタリアとの対戦は過去3回ある。エリック・カントナ、ローラン・ブランなどを擁した1988年の準々決勝ではホームで2-1、アウェーで2-2でフランスが勝ち、その後優勝している。しかし、ジネディーヌ・ジダン、クリストフ・デュガリーなどの1994年にはモンペリエの準決勝でPK負け、ロベール・ピレス、バンサン・カンデラなどの1996年もバルセロナでの準決勝で0-1で敗れており、いずれもイタリアが優勝している。
 6年前からオリンピックチームの監督を務めているドメネッシュにとって三度目の正直を果たすため、第1戦の前に3日間の合宿を行った。またフル代表の欧州選手権の本大会のチケットを手にしているフランスはフル代表クラスのダビッド・トレズゲ、ティエリー・アンリ、ニコラ・アネルカをU-21代表に回した。その結果、14日にパリ郊外のクレテイユで行われたホームの戦いでは、49分に先制されながら、61分に追いつきドロー。続く17日のタレントでのアウェーはアンダーエイジの試合としては異例の2万人の観衆の前で大荒れの試合となる。
 フランスは2分にアンリが先制、しかし12分には早くもバッシラが退場。10人での長い戦いは60分にイタリアのコマンディーニがヘッドで同点。90分を終わって1-1の同点で第1戦と同スコアとなり、延長戦に入る。警告は両チームで9(フランス5、イタリア4)という荒れた試合の決勝点は、110分にイタリアのピルロが決めたが18メートルの芸術的なフリーキック。その後のフランスの反撃は実らず、6分以上の長いロスタイムの末、ベスト8進出の道は閉ざされた。名将ドメネッシュは三度イタリアの前で涙を飲んだのである。

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