第80回 フランスリーグ 移籍状況に変化
■欧州の他国に先駆けて7月末から新シーズンがスタート
2000/2001シーズンのフランスリーグは、欧州各国に先駆けて7月28日に開幕した。シーズンの開幕が他国に比べて早いのは、ツール・ド・フランスの日程が大きく影響している。サッカーのシーズンオフにツール・ド・フランスを設けたことは本連載の第21回でもご紹介したとおりであるが、「ツール・ド・フランスのシーズンオフにサッカーを行う」と考えているフランス人の方が多いのかもしれない。
この時期には選手の移籍が活性化し、今季も国内外で多くの選手の移籍があった。今季の選手の移籍には次の2つの特徴がある。
■特徴その1 南米から多くの選手が移籍
まず、南米から多くの選手がフランスリーグに加わったことである。前々回の連載にも書いたとおり、ボスマン判決以降、フランスのクラブは選手にとって魅力のない存在となり、フランス代表クラスの選手が国外に流出するとともに、大物外国人選手も姿を消してしまった。
過去の歴史を振り返ってみると、プロリーグが発足した1930年代から第二次世界大戦までは、本場英国や中欧諸国からの外国人選手が活躍した。1970年代に入ると、多くの南米選手がフランスリーグで活躍した。そして1980年代には外国人選手の枠が3人となり、1996年のボスマン判決以降はユーゴスラビアやアフリカからの選手が中心となった。
70年のリーグの歴史で外国人選手の数は約2500人であり、これは選手全体の約15%である。外国人選手の国籍は90カ国に上る。1990年代だけでもアジアではカンボジア、中国、韓国から移籍した選手がプロとして活躍しており、日本人選手がいないのが不思議なくらいである。
■アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、ウルグアイから名手が参加
今年は南米から13人の選手が新たにフランスリーグに加わり、南米出身の選手は1部リーグで約30人になった。近年、南米出身でフランスで活躍した選手というと、1986年ワールドカップ・メキシコ大会を制したアルゼンチンからホルヘ・ブルチャガ(ナント)とガブリエル・カルデロン(パリサンジェルマン)、昨シーズン優勝のモナコの中心選手として活躍したのもアルゼンチン人のマルセロ・ガジャルドである。
もう一方の南米の雄であるブラジルからはジュリオ・セザール(モンペリエ)、後に日本の鹿島アントラーズに移籍したモーゼル(マルセイユ)が代表クラスの選手である。1990年代にはいるとパリサンジェルマンがブラジル人選手を軸にチームを構成し、リカルド・レイモン・ゴメス、ジェラルド、名古屋グランパスエイトに所属し日本の読者の皆さんもよくご存じのバウドというブラジル人トリオが活躍した。この系譜をライー、鹿島アントラーズから移籍してきたレオナルドが引き継いだ。この南米2強の国以外からはコロンビアの魔術師カルロス・バルデラマ(モンペリエ)、ウルグアイのエンゾ・フランチェスコリ(マルセイユ)などがワールドクラスの選手である。
■フランスを意識し始めたブラジル人
さて、数字の上ではほぼ倍増した今季の南米出身の選手であるが、その内訳はアルゼンチンが6人、ブラジルが5人、コロンビアが2人である。ビクトール・マニュエル・ボニージャ(サラマンク→トゥールーズ)とファリッド・モンドラゴン(インデペンデエンテ→メッス)という29歳のコロンビア人の2人は代表選手であるが、それ以外のアルゼンチン人、ブラジル人選手は若く、国際的な経験に乏しい。かろうじてセベリーノ・ルーカス(ブラジル:アトレチコ・パラナ→レンヌ)がブラジル・オリンピック代表のセンターフォワードである程度である。
ブラジル、アルゼンチンの両国は今までも大量の選手が国外に流出してきた。特にブラジル人の若手選手は、言葉の制約からポルトガルに渡る選手が多く、それ以外では日本を選択するケースが多かった。なぜ、今年は5人ものブラジル人選手がフランスを選んだのであろうか。
かつてパリサンジェルマンの名ストッパーで監督も勤めたリカルド・ゴメスは「一昨年のワールドカップの決勝によってブラジル人がサッカーの世界でフランスという国を認識し、従来は海外移籍というとポルトガルか日本だったが、その選択肢の中にフランスも入ってきた」と分析している。さらに今回の欧州選手権優勝は、ブラジルにおいてフランスサッカーの地位を高めることになったのである。
■特徴その2 多額の移籍金をかけるようになったフランスのクラブ
そして、もう一つの特徴は、フランス人選手を中心としてフランスのクラブチームの移籍金が高騰したことである。前々回の連載でニコラ・アネルカが2.2億フランというフランスサッカー史上最高の移籍金でレアル・マドリッドからパリサンジェルマンに移籍したことはお伝えしたが、それに続く移籍金額による順位は次の通りである。(金額はいずれも推定)
2位はほぼ同額。コンゴ人でレンヌからモナコに移籍したシャバニ・ノンダ(1.4億フラン)と、先述したブラジル人のルーカス(1.4億フラン)。4位にはマルセイユからパリサンジェルマンとライバルチームに移籍したフランス人のペテール・リュクサン(9000万フラン)が入り、同じくマルセイユからパリサンジェルマンに移籍したステファン・ダルマが7位(7000万フラン)、ウスマン・ダボ(パルマ→モナコ、6000万フラン)、ダビッド・ソメイユ(レンヌ→ボルドー、5000万フラン)とベスト10の中にフランス人選手が5人も名を連ねている。
これがいかに珍しいことであるかは、欧州の他のメジャーリーグと比較してみればわかる。エルナン・クレスポ、ガブリエル・バティストゥータなどが移籍したイタリアリーグでは、移籍金のトップ10のうちイタリア人選手はわずかに2人である。ポルトガル人フィーゴの史上最高移籍金が話題になったスペインリーグの移籍金トップ10を見てもスペイン人選手は3人、ファビアン・バルテスが海峡を渡ったイングランドリーグでは移籍金トップ10にフランス人選手が3人も入り、イングランドの選手はわずか2人である。移籍に関してはすっかり小規模なものになったドイツリーグは、移籍金トップはフランス人のビリー・サニョル(モナコ→バイエルン・ミュンヘン)、トップ10を見てもドイツ人の移籍は2人である。
この結果、フランスリーグの移籍金の総額はイタリア、ドイツに次ぎ3位になった。またフランスのクラブは年間予算では欧州20傑にマルセイユがようやく19位に入るだけであるが、今季の移籍金を見るとパリサンジェルマンが6位、レンヌが7位、モナコが9位、リヨンが15位、マルセイユ18位と、欧州20傑に5つのクラブが名を連ねている。
南米の若いタレントと、移籍にかかる費用を惜しまぬ体質に転換しつつあるフランスのクラブの変化は、新世紀に向けて何かを感じさせてくれるのである。