第90回 20世紀のフランス・サッカー
■20世紀のフランス最優秀選手はプラティニ
いよいよ新世紀が到来した。昨年のミレニアムが新世紀の前祝いとなり、やや陰が薄れた感はあるが、フランス・サッカーの20世紀を振り返る企画が行われた。今回はそれらをご紹介することにしよう。
フランスのスポーツジャーナリズムの世界で最もニュースが少ないのが火曜日である。日本では、月曜日が振替休日となりスポーツイベントが行われたり、月曜日に学生野球の3回戦が行われたりするが、フランスにはそうしたことがないからだ。20世紀最後の火曜日に発行された「フランスフットボール」誌で、元選手の投票による20世紀のフランス・サッカーの最優秀選手、最優秀監督、最優秀チームが発表された。
20世紀最優秀選手はミッシェル・プラティニ、2位にはジネディーヌ・ジダン、3位にはレイモン・コパが入った。
彼ら3人の活躍については、本連載の読者であるならばあらためてご紹介する必要もないだろう。3人ともクラブチームで世界の頂点に立ち(プラティニ:1985年ユベントス、ジダン:1996年ユベントス、コパ:1960年レアル・マドリッド)、代表チームでも世界や欧州の頂点あるいはその近くに達している(プラティニ:1982年ワールドカップ4位、1984年欧州選手権優勝、1986年ワールドカップ3位、ジダン:1996年欧州選手権ベスト4、1998年ワールドカップ優勝、2000年欧州選手権優勝、コパ:1958年ワールドカップ3位)。
この3人の中で序列をつけることは非常に難しいが、選手だけではなく監督とマネジメントの実績もあるプラティニが残る2人を抑えた。実はプラティニは1989年の代表監督就任まで自分が育ったナンシーの副会長を務めており、ワールドカップの招致・組織委員長就任前にマネジメントの経験があった。
■20世紀の最優秀監督のフランス最優秀監督はジャッケ
そして、20世紀最優秀監督にはエメ・ジャッケが選出された。日刊紙「レキップ」との軋轢が絶えなかったジャッケは136ポイントを獲得し、2位のアルベール・バトー(72ポイント)を大きく引き離した。3位はミッシェル・イダルゴが入っている。
ジャッケについてはワールドカップ優勝だけではなく、1985年の新春にはボルドーを率いて日本を訪問し、代表監督就任直後の1994年にも日本に遠征をしており、日本の読者の皆さんにとっては親しみのある存在であろう。その1994年の国際大会はフランス、豪州、日本の3か国対抗で行われたのだが、ジャッケは大会前に日本を訪問し、スカウティングをしている。このような試合に向けた繊細なプログラミングが、ワールドカップ優勝につながったのであろう。
2位のバトーは本連載第54回で紹介した黄金時代のスタッド・ド・ランスの監督であり、1955年から1962年まで代表監督も兼任した名将である。3位のイダルゴは1984年の欧州選手権を制覇し、日本代表監督の候補にもリストアップされた。
■20世紀の最優秀チームは二冠を獲得したフランス代表
そして20世紀最優秀チームである。トップはワールドカップと欧州選手権の二冠を達成した1998年から2000年のフランス代表、2位は欧州選手権で優勝し、2度のワールドカップで準決勝に進出した1982年から1986年のフランス代表、3位にクラブチームが顔を出し、1974年から1977年のサンテチエンヌが入った。
本連載の期間中のフランス代表がトップにランクされたことは筆者として望外の喜びであり、数々のバックナンバーをご参照されたい。また1982年と1986年のワールドカップは日本でも中継されたが、中間年の欧州選手権については関心が低かったと思われる。しかしながら、1984年の戦いは伝説として今もフランス国民の心の中に残っていることは本連載の第12回で紹介したとおりである。そして第52回で取り上げた1970年代の緑の軍団サンテチエンヌは、欧州チャンピオンズカップで優勝こそできなかったが、バイエルン・ミュンヘンとのグラスゴーでの決勝は忘れられない名勝負であった。
■数字が語る20世紀のフランス・サッカー
一方、日刊紙「レキップ」は、2000年12月31日と2001年1月1日付の記事で20世紀のフランス・サッカーを数字で分析している。
まず、クラブに関しては欧州チャンピオンズリーグ(欧州チャンピオンズカップ)での優勝5点、準優勝3点、カップウィナーズカップならびにUEFAカップの優勝4点、準優勝2点、フランスリーグ1部優勝3点、フランスカップ獲得2点、フランスリーグ2部優勝並びにリーグカップの獲得1点というようにポイントをつけ、20世紀のクラブのランキングを出している。
その結果、トップはマルセイユ(55ポイント)、2位はサンテチエンヌ(47)、3位はモナコ(33)、4位はランス(Reims、29)、5位にナント(27)が入っている。先述の「フランスフットボール」誌の20世紀最優秀クラブで上位に入ったサンテチエンヌよりもマルセイユが良い数字を残したのは、マルセイユが今世紀前半にもかなりタイトルを獲得しているためである。事実1950年以前にはマルセイユは18ポイント獲得しているが、サンテチエンヌは1ポイントも獲得していない。港町のマルセイユは20世紀前半から北アフリカ、中欧、南米まで選手を求め、世紀末のボスマン判決以降の動きを先取りしていた。
1957年のリーグ制覇で初めてポイントを獲得したサンテチエンヌは、20世紀後半ではマルセイユに10ポイントの差をつけている。1957年から1981年にかけて10度のリーグ制覇、6度のカップ獲得を記録しているからだ。クラブも代表もこれといった成績を残せなかった1960年代、1970年代のフランス・サッカーを支えた功績が、「フランスフットボール」誌の投票者である元選手たちの心に残っているのであろう。
また、「レキップ」では1990年代後半のフランス代表の黄金時代について言及し、1994年から2000年にかけて85戦で56勝24分5敗という驚異的な成績は、第二次大戦前のイタリア、第二次大戦直後のハンガリー、1970年代の西ドイツなどを上回るものであると分析している。しかもこの7年間には2敗を喫した年はなく、ジャッケが基礎を築き、勝率では前任者を上回るロジェ・ルメール(68.75%、ジャッケは64.15%)が継承したブルーの一層の発展が、新世紀にも期待できるのである。