第230回 スイスと32回目の対戦(4) 2004年欧州選手権出場を目指すスイス
■ワールドカップ、欧州選手権でのスイス
スイスがフランスと今まで31回も対戦しながら、親善試合での対戦がないのはワールドカップや欧州選手権の予選における組み分けの運もあるが、スイスがこれらの本大会で好成績を残していないこともあげられる。ワールドカップについては1966年のイングランド大会までの本大会に出場しなかったのは1930年のウルグアイ大会と1958年のスウェーデン大会だけであり、ほとんど出場していたが、ベスト8が最高であ
る。第二次世界大戦後、最初に欧州で行われたワールドカップは戦火から逃れたスイスで開催されたが、この際にスイスは準々決勝まで勝ち残り、オーストリアに敗れている。イングランド大会の後はワールドカップから遠ざかり、1994年の米国大会で28年ぶりの復活を果たし、決勝トーナメントに進出するが1回戦でスペインに敗れている。
第二次世界大戦後の冷戦下に始まった欧州選手権でも活躍の機会に恵まれなかったが、本大会出場チームが16に拡大された1996年のイングランド大会に出場する。ところがイングランド、オランダ、スコットランドと同じグループBという激戦区に入り、初戦のイングランド戦で引き分けただけで、残り2試合は連敗し、サッカーの母国を去ることになる。
■首位を快走する欧州選手権予選グループ10
しかし、現在争われている欧州選手権ポルトガル大会の予選でのスイス代表はグループ10を快走している。昨年のワールドカップに出場したロシア、アイルランドという強豪と同じグループであるが、昨年の10月16日にはアウエーでアイルランドを2-1と下し、今年の6月7日にはバーゼルにロシアを迎え、立ち上がりに2点先行したものの、ロシアの反撃にあい2-2のドローとなっているが、今まで6戦して3勝3分で負けなしの勝ち点12、ライバルのアイルランド(勝ち点10)、ロシア(勝ち点7、消化試合数がスイス、アイルランドより1試合少ない)を押さえて、堂々のトップであり、9月10日のアウエーでのロシア戦と10月11日のホームでのアイルランド戦を残すだけである。
■FCチューリッヒの準決勝進出の立役者コビー・クーン
スイスとフランスのかかわりについてはこれまでの連載で紹介してきたが、サッカーのスイス代表も様々な形でフランスとかかわりがある。まず、代表チームを率いるコビー・クーン監督はFCチューリッヒのメンバーとして1964年に欧州チャンピオンズカップで準決勝に進出する。準決勝では伝説のチーム、レアル・マドリッドに連敗するが、このときの活躍が認められ、マルセイユの会長が獲得に乗り出す。しかし、当時は外国人選手の枠が存在しており、マルセイユ移籍は実現せず、フランスで活躍することなく選手生命を終えるが、その後、スイス国内のクラブチームの監督を歴任し、来年の欧州選手権を目指す代表チームの監督になる。
■5人がフランスリーグに所属するスイス代表
また、今回メンバーとなった19人のうちの5人がフランスリーグに所属している選手である。リヨンのDFのパトリック・ミュレー、MFは3人おり、マルセイユの主将のファビオ・セレスティーニ、パリサンジェルマンのハカム・ヤキン、ガンガンのリカルド・カバナス、そしてFWにはレンヌのアレクサンドル・フレイが控えている。ちなみに第228回の連載でスイスの言語圏について紹介し、最大の言語圏はドイツ語圏と紹介したが、ドイツのクラブに所属しているのは4人であり、フランスのクラブが優勢である。これは多言語国家スイスとフランスの関係がサッカーの選手の国外移籍にも象徴されていることを示している。スイスの人口は約650万人、そして国外に約40万人のスイス人が生活しているが、在外スイス人の中でフランス在住者が最も多く、ドイツ在住者よりも多いのである。スイスにおけるドイツ語圏の人口が全体の65%を占め、一方のフランス語圏の人口が20%にも満たないことを考えれば、スイス人のフランス志向というものについてご理解いただけよう。
フランス・サッカーの外国人というと旧植民地を中心とするアフリカ勢が話題となるが、隣国のスイス人選手にもご注目いただきたい。そして、今回の親善試合での対戦は来年のポルトガルでの公式戦初対戦の前哨戦となるかもしれないのである。(続く)