第234回 2003年世界陸上パリ大会 (3) 女子七種競技、ヒロインの復活と誕生
■オリンピック招致に名乗りを上げたパリ
史上最大の規模となった今回の世界陸上。舞台は5年前のワールドカップのファイナルでブルーが世界の頂点に立ったスタッド・ド・フランスである。ワールドカップの際にはスタッド・ド・フランスはサンドニと表記されていたが、今回はパリという表記に変わっている。これはワールドカップの際はパリ市内のパルク・デ・プランスも使用されていたことに加え、2012年のオリンピックの誘致活動にパリも名乗りを上げており、メイン会場となるスタッド・ド・フランスとパリのイメージを印象付けたいのであろう。オリンピックの招致にも弾みをつけたいフランス勢は、今回70人の選手を送り込み、好成績を狙う。
■復活を期すユニス・バルベル
この70人の選手団の中で最初のメダル獲得の期待がかかったのは女子七種競技のユニス・バルベルである。バルベルの1999年セビリア大会における金メダル獲得については前回の本連載で紹介したとおりであるが、続く2001年エドモントン大会では途中まで好成績を残しながら棄権し、地元開催の今大会での復活にかける意気込みは並々ならぬものがある。女子七種競技は大会初日の8月23日とその翌日の24日に行われた。猛暑のパリも8月半ば以降は暑さが一段落し、バルベルの活躍を見ようとスタッド・ド・フランスは満員の観衆で埋まる。このところのサッカーの国際試合では次々と最少観客動員を記録し続けていただけに、久しぶりの満員のスタジアムは新鮮である。
バルベルは最初の種目の100メートルハードルで13秒05という記録で首位に立ち、好スタートを切る。続く走り高跳びでは1メートル91で2位、ライバルのスウェーデンのカロリナ・クルフトと激しく競り合う。3番目の砲丸投げでは14位にとどまったが、初日最後の種目である200メートルでは2位となり、3949点をマークする。一方のクルフトは4143点という驚異的なスコアを残し、初日トップ、バルベルは2位で2日目を迎える。
2日目の最初の種目は走り幅跳びである。7メートル01という記録を持つ得意種目でトップに立ちたいバルベルであるが、トップをライバルのカロリナに譲り、クルフトに7センチ及ばない6メートル61と2位にとどまる。午後の槍投げでは5位、そしてラストの800メートルでは8位となり、結局6755点で2位となり、銀メダルを獲得、見事に復帰を果たしたのである。
■カロリナ・クルフト、好成績で優勝
優勝は槍投げ、800メートルともバルベルを超える成績を残し、7001点をマークしたクルフトであった。クルフトは今世紀最初の7000点台を記録し、4年前の大会でフランスのヒロインが記録した大会記録を大きく塗り替えるとともに、世界歴代3位の好記録となった。そして特筆すべきは、これまでにオリンピックにも世界選手権にも出場した経験のない新星であるクルフトが、20歳7か月という若さで金メダルを獲得したことである。今までの大会で300人以上の金メダリストが栄冠に輝いているが、その中でクルフトは9番目に若い金メダリストとなったのである。
■敗れても喜びと誇りのセビリアのヒロイン
バルベルの銀メダルは前々回大会の金メダルには及ばないが、セビリアの翌年のシドニー、そしてその翌年のエドモントンでは途中で棄権していることを考えれば見事な成績とたたえるべきであろう。そしてバルベルをただ1人上回る成績を残したのが昨年の欧州選手権優勝者であり、しかも14年ぶりの7000点台という驚異的な成績を残したということを考えれば、銀メダルというのはこれ以上望むことのできない栄光の証である。事実、バルベルは負傷明けにこれだけの成績を残し、クルフトというすばらしい選手と一緒に競えたことを喜ぶとともに誇り、2位という成績に満足し、銀メダルを勇気のメダルととらえている。
大会開幕直後の注目の女子七種競技では、ヒロインの復活と新たなヒロインの誕生という物語が早速生まれたのである。(続く)