第2379回 新方式に揺れるデビスカップ(1) 過密日程で有力選手が欠場するデビスカップ

 7年前の東日本大震災、一昨年の平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■デビスカップの抜本廷な改革がITF総会で承認

 欧州の代表チームはワールドカップが終了すると秋から2年後の欧州選手権に向けて予選が行われる。もちろん代表チームにとっては欧州選手権だけではなく4年後のワールドカップも見据えながらチーム作りを進めていくことになる。2年後の欧州選手権、そして4年後のワールドカップは大会開催方式が大きく変更する。これについては別途ご紹介する予定であるが、真夏のバカンス時期にテニスの世界から驚くニュースが飛び込んできた。  デビスカップ抜本的な改革案が8月17日に米国のオーランドで開催された国際テニス連盟(ITF)の総会で承認されたのである。

■年に最大4回、5セットマッチで行われる現状のデビスカップ

 本連載でもしばしば紹介している通り、デビスカップはテニスの国別対抗戦である。他の競技のいわゆるワールドカップや世界選手権との違いは、その大会方式にある。デビスカップは1981年に現行の大会形式となり、ワールドグループと各地域別のグループに分けられており、最上位であるワールドグループには16チームが出場、2月に1回戦、4月に準々決勝、9月に準決勝が行われ、11月に決勝が行われる。年間を通じて大会が行われる点が他の競技のワールドカップとの最大の相違点であろう。
 それぞれの戦いはシングルス4試合、ダブルス1試合の5試合で、3勝した方が勝ち抜くノックアウトシステムとなっている。また、3日間にわたって行われ、金曜日にシングルス2試合、土曜日にダブルス1試合、日曜日にシングルス2試合、そして5セットマッチで行われ、最終セットはタイブレイクが適用されないルールとなっている。

■過密日程で多くの有力選手が欠場するデビスカップ

 3セットマッチでシングルス中心というツアー全盛時において、テニス本来の姿を120年近く保ってきたわけであるが、有力選手の欠場は従前から課題であった。毎週のようにツアーが組まれ、その過密スケジュールの中で1回戦は全豪オープン、準決勝は全米オープンの直後ということで有力選手はリカバリーに当てたい時期に行われ、4月の準々決勝は北半球でもテニスシーズンが始まり、欧州のグランドスラム(全仏オープン、全英オープン)に向けて調子をあげたい時期、そして11月の決勝はほとんどの選手にとってはポストシーズンで長いシーズンでボロボロになった体をいたわりたい時期である。デビスカップには賞金もポイントも存在するが、多くの有力選手が欠場している中で世界一を争う大会となっている事実は認めざるを得ない。
  日本の皆様であればエースである錦織圭がどれだけデビスカップの試合を回避してきたかをよくご存じであろう。好調時の錦織がデビスカップにフル出場していれば、日本はデビスカップ創設時以来の上位進出も夢ではないはずである。

■サッカー選手のジェラール・ピケが立ち上げたコスモス社

 このような構造的な課題を持つデビスカップであるが、1900年の創設以来の伝統を誇る大会であり、男子テニス界唯一の国別対抗戦として根強い人気を保ってきた。このデビスカップの課題解決の突破口となったのは意外な人物であった。スペイン代表でバルセロナに所属するサッカー選手のジェラール・ピケである。テニス観戦にしばしば姿を現すテニス好きのピケは選手活動の傍らで投資ファンドのコスモス社を設立する。このファンドにはバルセロナのスポンサーである日本の楽天や中国の資本も参加している。楽天の会長である三木谷浩史とピケの交遊がこのファンドを成立させたといえるであろう。コスモス社はサッカーの映像の世界のマネジメントを行うだけではなくテニス界にも関与した。昨年5月には「テニス版ワールドカップ」を提唱し、これまでのように年に最大4回も大会を行うのではなく、各チームが一堂に会し集中的に大会を開催するというアイデアを披露した。
 選手の間では賛否両論であったが、今年2月にはITFが理事会でコスモス社と25年間30億ドルの巨額契約を結び、コスモス社がテニスの発展、中でもデビスカップの改革に取り組むことになったのである。(続く)

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