第278回 ファビアン・バルテス、マルセイユに9年ぶりに復帰

■移籍市場が活性化する年末年始

 年末年始を迎え、欧州では最後のチャンスということでこのところ移籍市場が盛り上がっている。今シーズン前にはダビッド・ベッカムのマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリッドへの移籍が話題になったが、日本の皆様にとってはピエール・イブ・カルパンティエのフランスへの移籍とそれに伴うジャン・シャルル・クルーアンの昇格が衝撃的であっただろう。
 この年末年始の移籍シーズンではレンヌのブラジル人選手のセベリーノ・ルーカスがFC東京に移籍することになった。日本のサッカーファンのフランスに対する関心も高まっているようである。ルーカスについては4年前のシドニー・オリンピックにブラジル代表として出場しており、サッカー・クリックの「フランス・サッカー実存主義」第83回で紹介したとおりであるのでご参照されたい。

■マンチェスターでは出番のなかったバルテスがマルセイユに復帰

 フランスの移籍市場では、昨年10月にクラブ間で合意していたものの、FIFAによって移籍が認められなかったファビアン・バルテスが、このたびマンチェスター・ユナイテッドから古巣マルセイユに復帰したことが最大のニュースであろう。世界有数のクラブのゴールを守り、クラブでも代表チームでも世界一に輝いたバルテスであるが、今季は米国代表のティム・ハワードの陰に隠れ、出場機会に恵まれていない。このバルテスの移籍にはいくつかの意味がある。まず、所属クラブでの現在の実績に重点をおくフランス代表のジャック・サンティーニ監督もバルテスだけは特別視し、レギュラーとして起用しつづけている。バルテスの代表チームでのプレーには特段の問題はないが、所属クラブでコンスタントに試合に出場することは本人にとっても代表チームにとっても有意義なことである。

■バルテス事件以降に調子を崩したマルセイユ

 そしてバルテスを補強するマルセイユも単にGKの補強をするだけにとどまらず、大きな意味がある。年末年始の中断期間の段階でマルセイユの順位は6位。シーズン前には優勝候補筆頭と目されたマルセイユにとっては不本意な順位である。しかし、昨年の10月、すなわちバルテスの移籍がマンチェスター・ユナイテッドと合意しながらご破算になる段階では7勝2敗という成績で首位争いをモナコと演じ、2位であった。ところがこのバルテス事件がチームにショックを与えたのか、その後3勝4敗と調子を落とし、6位に落ちたのである。バルテスの加入は単純な戦力の向上だけではなく、チームそしてファンの士気を高揚するものになるであろう。そして1998-99シーズンには決勝で敗れたUEFAカップにも今シーズン出場しており、バルテス復帰後は国内での巻き返しと欧州での上位進出が期待される。

■初戦で大活躍、マルセイエーに大きなお年玉

 そのバルテスのマルセイユでの初舞台は新年早々、1月3日のフランスカップ・ベスト32決定戦である。1部リーグ所属のチームとしてフランスカップに参戦するのはこのベスト32決定戦からであるが、マルセイユの相手はホームゲームとは言え、1部リーグ所属のストラスブール。ストラスブールの監督はかつて宿敵パリサンジェルマンで活躍したアントワン・コンブアレ。ベロドロームのファンから万雷の拍手を受けてゴールの前に立つバルテス。所属クラブでの試合出場は実に昨年4月以来のことである。このバルテスが大活躍し、1点を失ったものの、1-1のまま試合は延長になっても決着がつかず、PK戦にもつれこむ。バルテスは2つのPKを阻止し、そしてマルセイユの5番目のキッカーとして手袋を着用したままペナルティスポットにおく。バルテスは見事にゴール左隅にPKを決めて9年ぶりに復帰した古巣でヒーローとなり、マルセイユのファンにとっては大きなお年玉となった。
 バルテスが前回マルセイユに所属したのは1992年から1995年までの3シーズン。マルセイユに移籍する2年前まではトゥールーズのアマチュアの練習生でしかなかったバルテスをマルセイユに誘ったのは時の大物会長ベルナール・タピ。1992年欧州選手権でフランス代表の予備GKとなったパスカル・オルメタを押しのけ、無名の若手GKが移籍初年から活躍する。マルセイユでの最初のシーズンには欧州チャンピオンズリーグ優勝、フランスリーグ優勝という栄光を経験している。しかし、八百長疑惑によってこれらのタイトルは剥奪されてしまい、さらにチームは2部に降格してしまう。ところがバルテスは2部リーグで優勝して1部復帰の原動力となり、1994年5月には神戸で代表にデビューしている。11年前ミュンヘンで欧州の頂点についたメンバーであるバルテスが再びマルセイユのユニフォームを着た。今度こそ本当の欧州の頂点にマルセイユが立つことは決して初夢ではないはずである。(この項、終わり)

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