第12回 フランス、アルジェリアと初対戦(8) ゴールラッシュ、そして予期せぬ幕切れ
■立ち上がりから好調なフランス代表
フランス代表が今年負け知らずどころか無失点のスタッド・ド・フランスのピッチの状態も上々である。フランスのブルーはいつにない輝きを見せ、開始直後からフランスが試合を圧倒する。左サイドに配置したバンサン・カンデラ、ティエリー・アンリがボールをうまくつなぐ。右サイドのロベール・ピレスも負けじと好配球を続ける。先制点は時間の問題であったが、意外なプレーヤーがゴールを決めた。20分に右サイドのピレスが持ち前のスピードでアルジェリアのDFをかわし、センタリング、逆サイドのDFのカンデラがゴールを決めた。ASローマではMFを務め、代表ではサイドバックとして起用され、ビシャンテ・リザラズの控えに甘んじていたカンデラの思い切ったポジショニングが先制点を生んだのである。
■変幻自在のフォーメーション
攻勢一方のフランスベンチは指示を出し、エメ・ジャッケ前監督以来の4-2-3-1のシステムを切り替える。親善試合とは両国の親善のためだけではなくこのように新たな戦術や選手の可能性を試すために存在するのである。左サイドの攻撃的MFに配置したアンリをFWに上げ、ダビッド・トレゼゲとともに2トップを組む。左サイドの攻撃的MFの役割はエマニュエル・プチ、ジネディーヌ・ジダン、カンデラがフレキシブルにスペースを埋め、変幻自在のフォーメーションとなり、4-2-3-1は4-1-3-2や4-2-2-2や3-2-3-2に変化する。2トップは間もなく功を奏する。27分にはトレゼゲのヘッドがゴールを襲い、32分にはトレゼゲ、アンリとつながれたボールをゴールにたたき込み、2-0となる。フランスの攻勢はとまらず、41分には左サイドからのボールをアンリが決めて3点目。前半だけで3得点というのは4月25日のポルトガル戦と同じ展開である。
一方的な試合になったが、アルジェリアもジャメル・ベルマディが前半ロスタイムにファリッド・ガジに対するフランク・ルブッフのファウルで得たフリーキックを決めて意地を見せる。アルジェリアがフランスから奪った初ゴールであるとともに、スタッド・ド・フランスでのフランス以外のチームとしても今世紀初めてのゴールである。
ロジェ・ルメール監督は選手を次々と交代する。ハーフタイムにジネディーヌ・ジダンに代えてユーリ・ジョルカエフ、ルブッフに代えてミカエル・シルベストルを投入する。55分には司令塔を務めたジョルカエフから左サイドのアンリに展開し、逆サイドのトレゼゲめがけてクロスをアンリが上げる。ターゲットにはうまくあわなかったが、フォローしていたピレスが4点目を入れる。その後もプチをクロード・マケレレ、トレゼゲをシルバン・ビルトールと選手を入れ替えて追加点を狙うが、事件は残り15分となった75分に起こった。
■アルジェリア国旗を持った若者の乱入
スタンドから白と緑のアルジェリア国旗を持った若者がピッチに走り込んできた。そして続く若者が2人、3人と増え、ピッチには数十のアルジェリア国旗が動き回り、異変を感じた選手たちは一目散にロッカールームへと避難した。選手なきピッチには次々と観衆がなだれ込み、試合再開と判断したポルトガル人の主審のゴメス・コスタ氏は試合の終了を宣言したのである。フランスサッカー協会のクロード・シモーネ会長が「席に戻り、静粛に、そして友好的に」とマイクを使って呼びかける。そしてつづいてのマリー・ジョルジュ・ブッフェ・スポーツ大臣が「試合が一番大切です。そしてその喜びを大切にしましょう」と訴えるが、誰も聞いてはいない。先ほどまで4-1という歓喜のスコアを示していた電光掲示板には「グラウンドから退出を!」という信じられないメッセージに変わっている。
歴史的な試合を今季最高とも言える試合内容で圧倒していたフランス代表であったが、残り15分でロッカールームに消えてしまったのである。(この項、終わり)