第298回 初出場・初得点物語(1) 2年連続リーグ得点王ステファン・ギバルッシュ

■結果を求められた新人、ルイ・サアとペギー・リュインデュラ

 2月18日のベルギーとの親善試合については本連載第294回と第295回で紹介したが、フランス代表100周年の始まりを飾るにふさわしい相手との勝利に加えて、デビュー戦を飾ったルイ・サアとペギー・リュインデュラが話題になった。フラムからマンチェスター・ユナイテッドに移籍してデビュー戦でゴールをあげて勝利に貢献したサア、そして選手層の厚いリヨンの攻撃の一翼を担い11得点をあげているリュインデュラの所属クラブでの活躍は代表チームのメンバーに入ることに異論はないであろう。サアが25歳、リュインデュラが24歳と経験も積んでおり、逆に代表入りして結果を残すことが求められている年齢である。
 2人の活躍については第295回で紹介したが、特に76分に追加点をあげたサアは代表デビュー戦でゴールを記録し、期待に十分応えている。サアの記念すべきゴールのお膳立てをしたのは10年前の代表デビュー戦で2ゴールをあげて衝撃的なデビューを飾ったジダンであったが、今回はデビュー戦でゴールを飾った選手を紹介しよう。

■ワールドカップに向けて代表入りしたステファン・ギバルッシュ

 まず、サアの前にデビュー戦でゴールを飾った選手はステファン・ギバルッシュである。1996-97シーズンにレンヌに所属し、22得点をあげてフランスリーグの得点王となったギバルッシュはシーズン終了後、オセールに移籍する。そして1997年10月11日の南アフリカとの親善試合で代表デビューを果たす。南アフリカとの初対戦の舞台は翌年のワールドカップの会場となるランスのフェリックス・ボラール、エメ・ジャッケ監督はワールドカップに向けて3人の代表未経験者を先発メンバーに送り込む。まずフランスリーグ得点王で27歳のギバルッシュがCFの位置に入り、左ウイングにはマレーシアのワールドユースで活躍しモナコに所属していたティエリー・アンリ、さらにGKにはメッスに所属するリオネル・レティジーである。当時20歳のアンリは若手の試験、そして正GKをファビアン・バルテスが務めているので、レティジーはバックアップメンバーとしての試験という位置付けであったが、ギバルッシュだけは攻撃陣の即戦力として結果を求められる立場にあった。この試合、両チーム無得点が続き、前半終了間際に南アフリカに先制を許してしまう。エメ・ジャッケ監督の評価も安定しない中で、アフリカの国にホームで敗戦を喫した場合は、責任問題にもなりかねない。緊張のハーフタイムを経て、後半に入り、53分にゴール前のこぼれ球を拾って同点ゴールを決めたのはギバルッシュであった。

■2年連続の得点王となってワールドカップでも優勝

 ギバルッシュはフランスリーグ得点王のタイトルにふさわしい代表デビューを果たし、得点力不足に悩むフランス代表の救世主として期待される。その後の親善試合でも攻撃陣の中心として代表メンバーに名を連ね続ける。南アフリカ戦以降に行われた6つの親善試合では得点をあげることができなかったが、移籍したオセールでは前年同様ゴールを量産し、21得点で2年連続フランスリーグの得点王に輝いた。そして、2年連続得点王と言うタイトルを獲得して、地元開催のワールドカップを迎える。
 6月12日のマルセイユでの開幕戦、相手は8月前にデビュー戦を飾った南アフリカである。ギバルッシュはフランス代表として12年ぶりとなるワールドカップ本大会の初戦のCFとしてベロドロームで「ラ・マルセイエーズ」を組んでうたう。読者の皆様もよくご存知のとおり、この大会で調子の波に乗ったフランスは初優勝を飾る。ギバルッシュは初戦で負傷し、途中退場して、グループリーグ第2戦のサウジアラビア戦は出場しなかったものの、第3戦以降のすべての試合に出場している。

■デビュー戦での得点が唯一の代表でのゴール、31歳で現役引退

 しかし、ギバルッシュはワールドカップ本大会でもゴールネットを揺らすことはできず、優勝メンバーになったが優勝に貢献できたか、というと疑問符がつく。ワールドカップ優勝後、ロジェ・ルメール新体制となった段階でギバルッシュは代表メンバーから外れる。
 1000年代最後の試合となった1999年11月13日のユーゴスラビア戦で、1年4月ぶりに代表復帰したものの、この試合でもゴールをあげることはできず、新千年紀を迎えるとともにギバルッシュは代表からの声がかからなくなる。結局、ギバルッシュが代表のユニフォームを着て、得点を生み出したのはデビュー戦のみだった。その後、リーグ戦でも不振が続き、ギバルッシュは2001-02シーズン終了後、31歳と言う若さで現役を引退する。フランスで世界チャンピオンとなった22人の選手のうち一番早く現役を引退したのである。(続く)

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