第444回 フランスリーグの汚点、3つの非公開試合
■a huis closと呼ばれる非公開試合
国際サッカー連盟(FIFA)は3月30日に平壌で行われたワールドカップのアジア地区最終予選の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)-イラン戦で観客が暴徒化したことに対し、6月8日に予定されていた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)-日本戦を中立国で観客を入れずに行うという処分を決定した。フランス語で観客を入れない試合はa huis closと呼ばれる。これは「扉を閉じた」という意味の古語で、裁判や会談で元々使われてきた用語であり、試合直前などの非公開練習も同様の表現となる。非公開試合はホームの観衆の声援が期待できないばかりではなく、クラブにとっては入場料収入が入らないと言う点で、競技面だけではなく営業面でも大きな影響がある。それに加えて試合開催地が中立国となったことは東アジア地域の不安定な政情を物語っており、5月中旬のクリスチャン・ペレの訪日は勇気ある行動と言えよう。日本の読者の皆様にも動揺を与えたようで、早速フランスにおける非公開試合について問い合わせがあったので、今回はフランスにおける非公開試合について紹介しよう。
■相手選手や女性審判員への観客からのものや爆竹の投げ込み
フランスリーグは70年以上の歴史があるが、これまでに非公開試合という例は3回しかない。最初の非公開試合は1974-75シーズンのニース-ニーム戦のことである。ニースの本拠地のレイ競技場で、ニームのGKのルイジ・ランディが観客から投げ込まれたものに当たり、負傷してしまう。この試合は結局ニースが2-0で勝ったが、この試合を無効とし、非公開で再試合を行い、その試合でもニースが同じスコアで勝ったが、古豪ニースの汚点となる事件であった。
そして第二の不祥事は2000年12月22日に起こった。ストラスブール-メッス戦で副審を務めた女性審判員のネリー・ビエンヌさんに爆竹が投げ込まれ、試合は1-0とストラスブールがリードしたままで66分に中断してしまった。この試合は非公開で2001年4月11日に行われ、今度はメッスが1-0と勝利する。ストラスブールはこの再試合での敗戦が影響して2部に降格してしまったのである。
■複数回の処分対象となったパリサンジェルマン
そして記憶に新しい第三の事件は今シーズン起こった。2004年12月18日に行われたリーグ第19節のパリサンジェルマン-メッス戦でパルク・デ・プランスのグラウンド内に10数個の発煙筒が投げ込まれた。パリサンジェルマンはシーズン初めの8月14日のカーン戦でも同様の事件を起こしており、非公開試合の処分がなされたが、パリサンジェルマン側の申し立てにとって回避された。このメッス戦での発炎筒事件に対しリーグ側は1月26日の第23節イストル戦を非公開試合とする処置を命じ、パリサンジェルマンも異議申し立てをしながらも、一時は処分を覚悟し、チケットの前売りを中断したが、結局試合の1週間前になってこの処分は撤回された。しかし、リーグ側は昨年のリーグカップ決勝でも同様の事件があったということで第27節のパリサンジェルマン-バスティア戦を非公開試合にすると決定し、フランスリーグで3番目となる非公開試合が2月26日にパルク・デ・プランスで行われた。
■非公開試合を契機に立ち直ったパリサンジェルマン
観客はシャットアウト、報道陣も人数を絞り、テレビ中継も衛星チャネルだけという状態で試合が行われた。しかしながら、パルク・デ・プランス周辺にファンが集まることに備え、周辺には800人の警備陣を配置した。非公開試合とは言っても競技場周辺には警備が必要であり、今回の北朝鮮-日本戦が中立国で行われる理由は競技場周辺の警備まで考慮した判断であろう。試合はパリサンジェルマンが、チュニジア代表のスリム・ベナシュールがPKを決めた1点を守り切り、勝利した。
しかし、注目すべきはパリサンジェルマンの成績である。非公開試合の処分を逃れたイストル戦で引き分けた後、パリサンジェルマンは3連敗する。13位まで順位を落としたところでファンの声援の無いバスティア戦を迎えて、勝利を収めると、その後は4勝2分1敗という成績を残している。この中には首位のリヨンをアウエーで倒し、今季リーグ戦でリヨンを初めてアウエーで破ったチームとなった。第34節を終了した時点でパリサンジェルマンの順位は今季最高の7位となり、来季の欧州カップ出場も手に届くところまで順位を上げてきた。非公開試合の処分は1試合あたり100万ユーロの減収というクラブの財政面へのペナルティだけではなく、選手達にとっても十分に効き目があったと言えよう。(この項、終わり)