第3457回 秋の陣に臨むラグビーフランス代表(3) パリオリンピックの金メダルもかすむ悲劇

 平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■アントワン・デュポンが加わった7人制ラグビー

 7月の南米遠征では人種差別発言でメルバン・ジャミネがチームから離脱し、アルゼンチンとの第1テストで代表にデビューしたばかりのウーゴ・オラドゥとオスカル・ジェグが女性への暴行で逮捕された。アルゼンチンとの第2テストは逆転され、8年ぶりの敗戦となった。
 このような事件で揺れる中、明るいニュースはパリオリンピックの7人制ラグビーで優勝を果たしたことである。本連載でもしばしば紹介している通り、アントワン・デュポンが7人制に専念するために今年の6か国対抗は欠場した。この時期に行われたワールドセブンズシリーズでは8大会のうち米国大会しか優勝できなかったが、合計ポイントでは5位になり、上位8チームが争うスペインでの決勝大会に出場した。スペインではグループリーグで2位になり、準決勝でフィジー、決勝でアルゼンチンに勝利し、初優勝を果たした。7人制ラグビーの世界大会はワールドセブンズシリーズの他にワールドカップとオリンピックがあるが、フランスは世界大会で初めての優勝を果たした(欧州選手権は2回優勝経験あり)。

■パリオリンピックで金メダルを獲得

 この優勝はフランス国民の希望となった。パリオリンピックではグループリーグでは、初戦で米国と12-12と引き分け、最終的には米国と勝ち点で並んだが、得失点差で2位となり、決勝トーナメントに進む。
 決勝トーナメントの初戦となる準々決勝の相手はアルゼンチン、7人制の世界で言えば、ワールドセブンズシリーズの決勝の相手であり、15人制の世界で言えばスキャンダルが続いた南米遠征の主たる対戦相手である。この難敵に対し、フランスは序盤からトライを重ね、アルゼンチンの反撃を退けて26-14と勝利した。準決勝では昨年のラグビーワールドカップで敗れた南アフリカに19-5と勝利する。決勝の相手は7人制では盤石の強さを誇るフィジーである。前々日に行われたグループリーグでは12-19と敗れているフィジーに対し、フランスは見違えるようなチームとなり、28-7と快勝し、オリンピックでも初優勝を果たしたのである。

■U-18代表のナディ・ナルジシが海難事故で行方不明

 ところが8月にはまた暗いニュースがフランスラグビーを襲う。南アフリカの遠征中の18歳以下のフランス代表チームが、遊泳禁止区域の海岸でリカバリーセッションを行い、2人の選手が波にさらわれた。そのうちSHのナディ・ナルジシは行方不明となってしまった。明らかにリカバリーセッションの場所を選定したチームスタッフ側の過失であり、7月のオリンピックの金メダルもかすむ悲劇となってしまった。

■フローリアン・グリル、フランスラグビー連盟会長選で再選

 このようにラグビーワールドカップ翌年の夏のフランスは暗いニュースと明るいニュースが交錯したが、11月にはオータムネーションズシリーズが始まる。
 そしてこれに先立って10月にはフランスラグビー連盟の会長選挙が行われた。フランスにおいてラグビーの競技団体は他の競技と比べるとお家騒動が多く、会長選挙も世間の注目を集める。本連載第3210回では、ベルナール・ラポルト会長の逮捕により、2023年5月に選挙が行われ、フローリアン・グリル氏が初選出されたことを紹介したが、現職会長の任期途中の有罪判決による交代ということもあり、1年数か月でまた選挙が行われることになった。
 立候補したのは現職のグリル会長、対抗はディディエ・コドリニウ氏、オールドファンであればご存じであろうが、コドリニウ氏は1970年代のフランスラグビーのレジェンドである。グリル氏はアマチュアクラブの充実を公約に6割以上の得票を得て、再選、新たに正規の4年の任期が与えられた。グリル会長はアマチュアクラブの充実だけではなく、トップのプロの代表選手に規律を求め、生活面にも厳しいルールを課し、イメージの失墜したフランスラグビーを立て直す。その第一歩がオータムネーションズシリーズなのである。(続く)

このページのTOPへ