第508回 2006年ワールドカップ展望(6) 目標は準決勝進出
■対戦相手に恵まれた決勝トーナメント1回戦
前回までの連載で今大会から導入される新たな方式と規定がフランス代表の戦略にどのような影響を与えるかを紹介してきた。フランス代表はグループリーグ最終戦と決勝トーナメント1回戦を移動なしで戦うためにグループリーグ首位を狙うであろう。また、同じ理由でスイスは2位を狙うであろう。両者の思惑が一致し、グループリーグの第1戦のフランス-スイス戦はドローに終わり、韓国、トーゴとの戦いの得失点差で順位が決定していくであろうと考えている。
そのグループリーグ首位のフランスの相手はグループHの2位チームである。グループHはスペイン、ウクライナ、チュニジア、サウジアラビアであり、最終戦はグループGと同日ではあるがキックオフ時間は早く、相手を選ぶことはできない。ワールドカップの本大会では不本意な成績が続いているスペイン、初出場のウクライナ、前回大会は惨敗したチュニジアとサウジアラビア、とワールドカップでは実績の乏しい国が集まった。一方、フランスとの対戦成績を考えるならば、スペインは通算成績では負け越しているものの、このところ3連勝中、最後の敗戦が1981年と相性がよく、ウクライナとは2000年の欧州選手権予選で同グループとなり、ホーム、アウエーともスコアレスドロー、そして記憶に新しいところで一昨年に親善試合を行い、フランスが勝利している。チュニジアとは2002年のワールドカップ敗退後、ジャック・サンティーニ体制となって初の試合の相手であり、引き分けている。そしてサウジアラビアとは唯一の対戦が1998年のワールドカップであり大勝している。すなわち、1980年代以降、これら4か国との対戦成績は9勝5分1敗と大きく勝ち越しており、どこの国が出てきてもフランスにとって決勝トーナメント1回戦突破は難しくないであろう。
■首位突破以外は厳しくなるグループE
準々決勝の対戦相手の可能性はグループEの1位とグループFの2位の勝者である。前回の本連載で紹介したとおり、グループFには優勝候補筆頭のブラジルが控えており、首位になればフランスと同様にグループリーグ最終戦と決勝トーナメント1回戦を同じ会場で戦うことができるため、グループリーグでの首位は確実であろう。
グループEでは2位になったのでは決勝トーナメント1回戦でコンディションに恵まれたブラジルと戦わなくてはならず、首位でなければグループリーグ突破にはならない。したがって、イタリア、チェコ、ガーナ、米国からなるグループEは実質定数1という難関グループである。ここも欧州勢の対決は最終戦となっており、この対戦結果が首位を決めるであろう。イタリアとチェコが同じ成績で最終戦を迎えた場合、この試合は非常に興味深いものになる。
■2位争いが見物のグループF
一方のグループFはクロアチア、豪州、日本の2位争い、この3か国同士の対戦で連勝したチームが2位となるであろう。前回の連載で紹介したとおり、最終戦でブラジルと対戦する日本はこれまでの大会規定では有利になったが、直接対決を優先する今大会ではその恩恵にあずかることができず、あくまでも豪州、クロアチア戦の連勝を狙わざるを得えない。フランスの準々決勝の対戦相手は欧州勢ではイタリア、チェコ、クロアチア、それ以外ではガーナ、米国、豪州、日本が、想定される。しかし、このところのフランスの成績を見る限り、これらの国から勝ち抜いてきたチームとの対戦で優位に立つとは考えにくい。
■新星の出現が鍵を握る準決勝進出
ベスト8が筆者の想定するフランス代表の現時点での実力と考えられるが、筆者としてはさらに1つ上の準決勝進出を期待したい。今からちょうど10年前のイングランドでの欧州選手権、フランスは1988欧州選手権予選から続く不振を脱して本大会に進出するが、当初期待は少なかった。ところが、大会が始まってから守備のフォーメーションが確立するとともに、ジネディーヌ・ジダン中心の攻撃パターンが完成し、グループリーグを突破、そしてオランダをPKで下し、チェコにはPKで敗れ、決勝進出を逃す。結局この大会での経験が2年後のワールドカップ優勝へとつながった。
今大会も現段階の力を考えればフランスのベスト8は妥当な予想であるが、これから本大会までの半年の間に新星が登場することを期待したい。フランスがワールドカップや欧州選手権で好成績を残した大会は必ず本大会開始の半年前から新星が出現している。開催国であり1982年大会の準決勝で死闘を演じたドイツと再び準決勝で戦うところを見てみたいものである。(この項、終わり)