第532回 UEFAカップ、ベスト8への道(1) ホームで明暗の分かれたリールとマルセイユ
■手の内を知っている相手を封じたリール
前回の本連載ではフランス勢の期待の星であるリヨンが3年連続でチャンピオンズリーグの準々決勝に進出したことを紹介したが、欧州カップはチャンピオンズリーグだけではなく、UEFAカップもある。第525回の本連載で紹介したようにフランスからはマルセイユ、ストラスブール、リールが決勝トーナメント1回戦を突破し、ベスト8をかけてリヨンがベスト8入りを決めた翌日の3月9日に第1戦が行われ、15日に2回戦が行われる。
フランス勢の先陣を切ったのはリールであり、ホームにスペインのセビリアを迎えた。若手選手で固めたリールはリーグ戦でもリヨン、ボルドーに次ぐ3位であり、このところリーグ戦でも3連勝しており、調子の波に乗っている。2季連続のチャンピオンズリーグ出場も十分に狙える位置にある国内リーグのリズムを欧州での戦いに持ち込みたい。チャンピオンズリーグのグループリーグでマンチェスター・ユナイテッドを下したのが自信となっている。セビリアはスペインリーグで現在6位、スペインリーグでの優勝歴は1度しかないが、常に上位に位置するチームである。このチームの脅威はかつてフランスリーグに所属していた選手をフレデリック・カヌーテ、ジャビエル・サビオラなど多数抱えるところにある。
そのカヌーテが開始早々、クロスバーを直撃する。リールの先制点は24分のCKからである。ジョフレイ・デルニスの蹴ったCKは直接ゴールへと吸い込まれる。その後セビリアも反撃し、攻撃の回数はリールよりも多かったものの、得点機にはならず、リールはホームで1-0と言うスコアで先勝する。
■宿敵パリサンジェルマン戦で起こったハプニング
そしてマルセイユもまたホームで第1戦を迎え、ロシアのゼニト・サンクトペテルブルクと対戦した。マルセイユはこの試合の直前のリーグ戦は宿敵のパリサンジェルマン戦であった。ところがこのパリサンジェルマン戦で思わぬハプニングが起こった。優勝争いには加わらない両チームの対戦であるが、ライバル心を燃やす対決はグラウンドの内外で多くのトラブルを起こしてきた。マルセイユはホームチームのパリサンジェルマン側に試合の治安を確保するための諸条件を提示したが、パリサンジェルマンの回答が不十分であると言うことで、マルセイユは思いもかけない手段に出た。
それはこのパリサンジェルマン戦に控えメンバーで臨むという奇手である。また、マルセイユは自チームのファンに観戦に行かないよう呼びかけ、3月5日のパルク・デ・プランスはピッチには十代のアマチュア選手、スタンドにはマルセイユの応援団のために準備した座席が巨大な空席となるという異様な風景の中で試合が行われた。試合はレギュラーで臨んだパリサンジェルマン側が一方的に試合を支配するが得点に結びつかず、0-0というスコアレスドローで終了、試合後は、大観衆の前で初めて試合をするマルセイユの若手選手たちは喜び、パリサンジェルマンの選手はがっくりすると言う対照的な光景となった。
■前評判はマルセイユ圧倒的有利
マルセイユが得たものは若手選手の自信と勝ち点1だけではない。代表のスロバキア戦、UEFAカップと過密日程気味の中で主力選手を1試合休養させることができた。また対戦相手のゼニト・サンクトペテルブルクは、昨年の12月以来寒さのためロシアリーグの試合がなく、3か月間試合から遠ざかっており、欧州カップの1回戦で戦線復帰、国内でもようやく3月4日にカップ戦が再開したばかりである。したがってホームのマルセイユ圧倒的有利と言う下馬評の中で試合はキックオフされた。
■リーグ中断中に南仏で合宿を行ったゼニト・サンクトペテルブルクが勝利
ところが、ゼニト・サンクトペテルブルクは51分に先制する。休養十分なベストメンバーのマルセイユには焦燥感が現れ、70分にはフランク・リベリーが2回目の警告を受け、1人少なくなり、0-1で敗れる。誰しもがベストメンバーで戦うマルセイユ有利と思っていたところで番狂わせが起こった。実はゼニト・サンクトペテルブルクは3か月のリーグ中断の間、南仏で合宿を行っていたのである。1点のビハインドのマルセイユには厳寒のロシアが待っているのである。(続く)