第563回 3つの親善試合、メキシコ戦(2) 第1シード国同士の戦い、辛勝に終わる
■中南米・カリブ海の常連国メキシコ
ジネディーヌ・ジダンにとって本拠地スタッド・ド・フランスでの最後の試合となるメキシコ戦は大きな注目を集めた。もちろんジダンの最後の姿を見ようというファンの期待だけではなく、相手がメキシコと言うことも見逃せない事実である。
メキシコは中南米・カリブ地区では安定した成績を誇り、今回が4回連続で13回目の本大会出場となる。予選では米国と7勝1分2敗で並び、得失点差で首位を米国に譲ってはいるものの、すでに予選突破を決めた後の最終戦でトリニダード・トバゴに敗れており、2位にとどまっている。逆にトリニダード・トバゴは最終戦の相手がメキシコであったために勝ち点3を得て、プレーオフに進出して初出場を手にした。欧州・南米以外から唯一の第1シードにも選ばれている。欧州では昨年のコンフェデレーションズカップでのブラジル戦勝利は記憶に新しい。
■長期合宿を行ったメキシコ
そしてフランスは1週間のティーニュでの高地合宿を終えたチーム結成後初めての試合となるが、相手のメキシコは4月12日からチームとして合宿に入っている。まずアカプルコ、そしてメキシコで合宿を行い、5月5日にはベネズエラ、13日にはコンゴ民主共和国と親善試合を行っている。欧州に渡ってフランスのサンテエチエンヌで22日から合宿を行い、欧州組の選手を合流させて調整している。
チームを率いるのはリカルド・ラボルペ監督、1978年ワールドカップで優勝を果たした際のアルゼンチン代表のメンバーである。日本のサッカーシーンには不可欠な紙吹雪はこの時のアルゼンチンがモデルであることから、日本の皆様も当時第三GKであったラボルペ監督をよくご存知であろう。
■大会前唯一の第1シード同士の親善試合
ワールドカップ前に多くの親善試合が予定されているが、欧州のリーグに多数の代表選手を抱える欧州の第1シード国がリーグ戦終了後に試合を行うのはこの27日のフランス、スペイン(ロシアと対戦)、ドイツ(ルクセンブルグと対戦)が最初であり、欧州の第1シードの面目にかけてもそれぞれ負けられない試合である。また、フランスもメキシコも第1シードであり、第1シード国同士の戦いはこれが最初で最後である。次の第1シード国同士の戦いが実現するのは最短でも決勝トーナメントが始まる6月24日である。
さらに、歴史を遡れば、1930年の第1回ワールドカップの開幕戦はフランス-メキシコ戦であり、これから最後のワールドカップを迎えるジダンを中心とするフランス代表の最初のスパーリングマッチの相手に実力、ブランドとも申し分のない相手である。
■ジダンがブレーキ、途中で交代
試合には7万8000人を超える大観衆が集まった。またテレビの前でも多くのファンがスタッド・ド・フランスでは最後となるジダンの勇姿とワールドカップにかけるフランス代表の試合に注目した。
しかし、国民の期待とは裏腹にフランスは低調な試合をしてしまう。ボールをメキシコに支配され、攻撃の形を作ることができない。特にブレーキとなったのが10番の位置に入ったジダンである。前半のロスタイムにジブリル・シセの右サイドからのクロスをメキシコのDFが処理ミスし、フローラン・マルーダが代表初ゴールを決め、かろうじて1点をリードしてハーフタイムを迎える。後半に入り動きの悪いジダンをレイモン・ドメネク監督はベンチに下げると言う荒療治、ビカッシュ・ドラッソーをピッチに投入する。さらに得点の取れないFW陣も交代させ、72分にはフランク・リベリーをダビッド・トレゼゲに入れ替える。期待の新人がついに代表デビューするが、追加点を奪うことはできず、結局試合は1-0のままでタイムアップとなる。
4月から長期の合宿を行ってきたメキシコと雪のまだ深いティーニュでの合宿を終えたばかりのフランスとでは条件が違うが、ジダンの記念すべき代表100試合目は、会心の勝利ではなく辛勝となってしまった。チームの完成度も不安であるが残されたチャンスはデンマーク戦と中国戦の2試合だけなのである。(この項、終わり)