第592回 ワールドカップ回顧(7) 影の薄かったアジア勢
■大黒将志しか選出されなかったアジア、オセアニアの2大陸
第586回以降、フランスのクラブに所属して今回のワールドカップに出場した選手を紹介してきたが、残る2大陸であるアジアとオセアニアはどうだっただろうか。この両大陸の代表チーム(日本、サウジアラビア、韓国、イラン、豪州)にはフランスのクラブチームに所属している選手は2部のグルノーブルから選出された日本の大黒将志ただ一人であった。トップレベルであるフランスの1部リーグを見渡してみても両大陸の選手は日本の松井大輔(ルマン)1人である。かつては韓国人選手や他の日本人選手が1部のクラブに在籍していたこともあったが、両大陸の選手はプレミアリーグやセリエAなどの欧州トップレベルのリーグにしか所属しておらず、フランスリーグに関心を持たれていないようである。
■フランスでは地上波で放映のなかった日本-豪州戦
逆にフランスのサッカーファンもこの両大陸のサッカーに関心を持っていないようである。今大会は全部で64試合が行われた。うちグループリーグの最終戦は2試合同時に試合が行われたが、それ以外の56試合はキックオフの時間がすべて異なっていた。グループリーグの最終戦はどちらかの試合が地上波で放映されないケースもあったが、それ以外の56試合は基本的には地上波で中継された。ところがその56試合のうち唯一地上波で放映されなかったのが6月12日の日本-豪州戦である。平日の15時という時間で他に有力なスポーツイベントなどのない時間帯であったが、フランスのテレビ局はこの試合を中継しなかった。この試合はアジアあるいはオセアニアの大陸のチーム同士が戦った唯一の試合であり、両大陸から選出された選手は2部リーグの選手が1名、1部リーグで活躍している選手がリーグ戦でかなり活躍しながら代表に選出されないと言う状況であれば、テレビ中継を思いとどまったのは当然のことであろう。
日本の読者の皆様から、フランスにおいて今回の日本の戦いぶりはどのように評価されたのかという質問のお便りもいただいたが、このテレビ中継の件からもわかるとおり、かなり注目度が低かったというのが正直なところである。
■欧州では試合出場機会が少ない日本人選手
しかしながら、今回のワールドカップはフランスそして欧州のファンに日本サッカーを見せる機会となったことは事実である。なぜならば多数の日本人選手が欧州のクラブに所属しており、雑誌やニュースなどで彼らのスターとしての裕福な行動が伝えられる機会は少なくない。しかし、彼らのサッカー選手としてのプレーぶりは意外と知られていない。なぜならば、彼らの多くは所属するクラブの試合にはあまり出場せず、日本代表チームの一員としての活動に重点をおいているからである。日本代表も欧州のチームと試合をすることはあるが、アジアのチームとの試合が基本である。したがって、欧州のファンは自分の住んでいる町のクラブに日本人が所属しており、新聞や雑誌で彼らの生活ぶりを知ることはあっても、彼らのプレーを見る機会は少なかったのである。個人よりも国家を重視する日本の伝統的な価値観にのっとれば日本人選手が所属クラブでの活動よりも国家代表としての活動を重視し、彼らのプレーを欧州で見ることができないのも当然のことであろう。
■期待はずれに終わった日本選手のプレー
そのような状況に置かれた中でワールドカップという機会を得て欧州のファンはこれまではなかなか見ることができなかった日本人選手をスタジアムあるいはブラウン管で見ることができた。日本人選手、日本のサッカーを見ることができたというのは欧州のサッカーファンにとって貴重な機会となったが、その結果は残念なものであった。クロアチアと引き分けただけで、豪州、ブラジルには逆転負けを喫したわけであるが、プレーヤーとしての印象は非常に薄かったとしかいえない。また、日本選手の中で金銭的に余裕のある選手は豪華なホテルに分宿していることが報道され、プレーそのものよりも団体競技のスポーツマンらしからぬ側面が取り上げられた。
結論としていえば、スターとして一流、プレーヤーとして二流、スポーツマンとして三流というのが日本人選手に対する評価ではなかったのであろうか。(この項、終わり)