第601回 2006年バスケットボール世界選手権(2) トニー・パーカーの戦線離脱
■前評判の高いフランス
20年ぶりに世界選手権の本大会出場を決めたフランスであるが、前評判は悪くない。というのも、主力選手がNBAをはじめ、内外の有力クラブに所属している。もちろんクラブレベルではNBAが世界最高峰であるが、欧州のクラブも負けていはいない。さらにサッカーではなかなか欧州の中でタイトルの取れないフランスのクラブであるが、バスケットボールではフランスのクラブが欧州カップで活躍をしている。そして前回の本連載でも紹介したとおり、昨年行われた欧州選手権で3位に入り、上り調子である。さらにワールドカップが終了するとともに、バスケットボールのフランス代表は強化期間に入り、1月間に12試合の試合を各国の代表と行い、8勝4敗、その8勝の中には昨年の欧州選手権の覇者ギリシャに対する勝利も含まれている。
■死のグループに入ったフランス
バスケットボールの世界選手権もサッカーのワールドカップ同様、グループリーグを戦い、上位チームが決勝トーナメントに進むという大会形式であるが、サッカーのワールドカップと比較すると、グループリーグが6チームで構成され、上位4チームが決勝トーナメントに進出するという点が大きく異なっている。4チーム中上位2チームしか決勝トーナメントに進出できないサッカーのワールドカップと比較し、広き門に感じる読者の皆様も少なくないと思うが、実際はそうでもない。フランスはグループAに入り、前回の優勝国であり、これまでに世界選手権で5回の優勝を誇るセルビア・モンテネグロ(前回大会時はユーゴスラビアとして参戦)、そして2004年アテネオリンピックの優勝国であるアルゼンチンという強国と同居することになった。アルゼンチンは前回の世界選手権では延長戦の末ユーゴスラビアに敗れており、フランスは前回大会の優勝チームと準優勝チームと同じグループで決勝トーナメントを目指す。
それ以外はレバノン、ナイジェリア、ベネズエラというメンバーが揃っている。これらの3チームはこれまでの世界選手権では主だった成績を残していないが、レバノンはアジア選手権で中国に次ぐ2位という成績を残し、ベネズエラも北南米が一堂に会して行われるアメリカ選手権で米国を下して3位に入り、日本行きのチケットをつかんでいる。さらにナイジェリアもアフリカ選手権3位であるが数多くの選手が米国の大学でプレーした経歴がある。
このように考えると前回のファイナリストだけではなくそれ以外のチームの世界選手権の予選に当たる大陸別選手権で特筆すべき結果を残しており、フランスの所属するグループは死のグループである。
さらにフランスの対戦順も厳しいものがある。第1戦はアルゼンチン、第2戦はセルビア・モンテネグロと強国との対戦で世界選手権のスタートを切る。この開幕2試合は連敗する可能性も十分あるが、残りの3チームのうち急速に力を上げてグループリーグ後半戦でフランスなどと対戦するチームが出現するかもしれない。
■強豪国相手にも十分に勝機
逆に、アルゼンチンはオリンピック優勝国とはいえ、大会直前の親善試合では不振で1勝3敗という成績、そしてセルビア・モンテネグロは2005年欧州選手権で地元開催ながらフランスに敗れており、フランスが両チームに連勝する可能性も十分にある。
■トニー・パーカーが直前の親善試合で負傷
ところが、8月15日、フランスは大会前最後の親善試合を中国の南京でブラジルと行う。ワールドカップ準々決勝の雪辱に燃えるブラジルをフランスは下すが、この試合で悲劇は起こった。本連載の第208回から第211回にかけて紹介したフランスのエースであるトニー・パーカーが右手人差し指を骨折する。利き手の人差し指の骨折という致命的な負傷のため、パーカーは戦線を離脱する。
アジアでの初めての世界選手権、そしてエースの直前の練習試合での負傷、なにやら4年前のサッカーのワールドカップでのジネディーヌ・ジダンの負傷を想起させる不吉なアクシデントである。しかし、フランスの青いイレブンはそのアジアでのトラウマからようやく今回のワールドカップで解き放たれた。フランスの青い5人は初戦のアルゼンチン戦でどのような戦いぶりを見せてくれるのだろうか。(続く)