第645回 ラグビー、秋の陣(4) 薄氷のアルゼンチン戦勝利、笑顔なきフィフティーン
■北半球での試合に強いアルゼンチン
前回の本連載で紹介したとおり、今年になって好成績を残しているアルゼンチンであるが、南半球での試合よりも北半球での試合のほうがいい成績を残している。今年になって北半球での試合は秋の欧州遠征のイングランド戦とイタリア戦であり、いずれも勝利している。さらに昨年11月の欧州遠征でもスコットランドとイタリアと戦い、連勝している。すなわち昨年から今年にかけて欧州で6か国対抗に出場する国と対戦し、4連勝中ということになる。
■先発メンバー全員が欧州のクラブに所属するアルゼンチン
このアルゼンチンの欧州での好成績には理由がある。それはほとんどの選手が欧州のクラブに所属しているからである。その中で最大の勢力を持つのはフランスのクラブである。今回のフランス戦でも先発メンバーのうち11人がフランスのクラブに所属し、イングランド2人、イタリア、アイルランドが各1人と全員が欧州のクラブで活動しており、アルゼンチンのクラブの5人の選手は全員リザーブである。
一方のフランスは主将でフッカーのラファエル・イバネスだけがイングランドのクラブに所属し、残り14人はフランスのクラブに所属している。
■フランスが大量リードで前半を終了
この秋の成績を見る限り、アルゼンチンが優勢という前評判であったが、フランスも秋のホームゲームで3連敗というわけにはいかない。また同一国に5連敗するわけにもいかない。スタッド・ド・フランスは8万観衆で立錐の余地もなくなった。フランスは試合開始から動きがよくなく、先制点はアルゼンチンであった。9分にモンペリエのSOを務めているフェデリコ・トデシニが45メートルのPGを成功させる。これに対してフランスは16分にクリストフ・ドメニシがゴールポスト中央にトライを決める。この日キッカーとなったSHのドミトリ・ヤシビリが難なく決めて、7-3と逆転する。20分にアルゼンチンもPGを決めて7-6と1点差に詰め寄られるが、すぐさま23分にはヤシビリが40メートルのPGを成功させて10-6と点差を広げる。さらに25分にはCTBのフローリアン・フリッツがトライを決め、ゴールも成功して17-6、アルゼンチンはこれに対して負傷退場したトデシニに代わってキッカーを務めるフェリップ・コンテポニが1本PGを返しただけで、前半はフランスが17-9とリードして折り返した。
後半も先にスコアを動かしたのはフランスであった。45分には相手ボールスクラムを奪ってチャンスをつかみ、相手のミスに対しドメニシが今日2本目のトライ、ゴールもヤシビリが成功させてリードを24-9と広げる。さらに50分にはヤシビリがSOのダミアン・トレイユに対するノーボールタックルで得たPGを決めて27-9となる。試合内容はおぼつかないものの、相手のミスに乗じて得点を重ね、30分後の勝利は手中にあると思われたが、そうではなかった。
■残り20分間にフランスはミス連発、アルゼンチンは猛追も1点及ばず
ここから試合終了までフランスはミスを連発、アルゼンチンが一方的に試合を支配する。ちょうど後半が半分経過した60分過ぎからフランスの歯車が狂い始める。FBのペピート・エルホルガの反則から与えたPKからアルゼンチンはチャンスをつかみ、フランス守備陣の乱れに乗じ、アルゼンチンのゴンサロ・ロンゴエリアがフランスのタックルを振り切ってチーム初めてのトライをあげる。ゴールも決まり、フランスのリードは27-16となる。69分にはフランスの不用意なキックからアルゼンチンがチャンスをつかみイバネスがたまらずオフサイドの反則を犯す。フェリップ・コンテポニがこの日2本目のPGを成功させてアルゼンチンは19-27と追い上げる。そして残り時間が7分となった73分、アルゼンチンのFBでスタッド・フランセに所属するパリの人気者ホアン・マルタン・ヘルナンデスがアジャンのFBを務めるエルホルガを交わしてトライ、ゴールも決まって26-27と試合は1点差になった。アルゼンチンが勝利するのは時間の問題と思われたが、攻め続けるが残り1本がなかなか奪えない。そして79分、フェリップ・コンテポニはドロップゴールを狙う。セルジュ・ベッツェン、イバネスらがチャージに入り、アルゼンチンの逆転を阻む。
結局試合は27-26という1点差でフランスが勝利し、意地を見せたが、43-3から43-31まで追い上げられた今年2月11日のアイルランド戦のような試合内容にフランスのフィフティーンには笑顔はなかったのである。(この項、終わり)