第650回 チャンピオンズリーグ最終節(2) リール快勝、初の決勝トーナメント進出

■マルセイユ以外のフランス勢には強いACミラン

 これまで欧州チャンピオンズリーグで決勝トーナメント進出の経験がないリールは悲願をかけてミラノに乗り込んだ。本連載で何度も取り上げたように、1990年代初めに欧州王者となった当時のACミランがどうしても勝てないのがマルセイユであった。マルセイユがACミラノに対して優位であったことから、本読者の皆様はACミラノがフランス勢を苦手にしているように思われるかもしれないが、実はマルセイユが欧州の舞台から去り、それ以外のフランスのチームが欧州カップでACミラノと対戦したが、その後ACミランはフランス勢に対し連戦連勝、ポスト・マルセイユ時代においてホームではフランス勢に対して無敗である。

■ベストメンバーのリールが先制点

 イタリアでは2戦2勝のリール、ホームでフランス勢に強いACミランという対戦となったが、すでに首位を確定しているACミランは多くの主力を休ませる。出場すると予想されていたカカやクラレンス・シードルフは先発メンバーから外れ、ベンチでキックオフを待つ。一方のリールは意欲に勝り、ベストメンバーで臨む。この意欲の違いが試合展開にすぐに現れる。立ち上がりから激しい動きを見せるリールに対し、ACミランは動きが鈍い。5分にはピーター・オデンウィンギーが鋭いシュートを放つがACミランの控えGKに阻まれる。しかしリールの先制点は時間の問題であった。7分にはシュートをACミランのGKがはじき、そのこぼれ球をオデンウィンギーがすかさずゴールに叩き込み、先制点をあげる。その後もリールは攻撃の手を休めず、1-0で前半を終了する。そしてもう1つの試合でアンデルレヒト(ベルギー)もまたAEKアテネ(ギリシャ)を1-0とリードしており、このままのスコアで行くとリールが2位に滑り込む。

■AEKアテネはドロー、追加点をあげたリールは決勝トーナメントへ

 後半に入り、ACミランも負けてはならぬものとカカとシードルフを投入する。2人の役者がミラノのサンシーロのピッチにたったころ、ブリュッセルではアンデルレヒトが追加点、この報せに勇気付けられたリールのファンにとっては2人の主役クラスの投入は恐れるに足らずである。必然的にそこで生まれたのは同点ゴールではなく追加点であった。カデル・ケイタが見事にワンツーパスから抜け出して、2点目をあげる。
 リールはこのスコアを守り切り、2-0で勝利、ブリュッセルの試合ではAEKアテネが猛追し、2点をあげたが、勝ち越すにはいたらず、引き分けとなり、グループHの最終成績は1位ACミラン(勝ち点10)、2位リール(9)、3位AEKアテネ(8)、4位アンデルレヒトとなり、リールはクラブ史上初のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント進出となったのである。
 そしてすでに首位が決まっているリヨンはステアウア・ブカレストと1-1のドロー、3位になりUEFAカップに転戦することが決まっているボルドーはPSVアイントホーヘンに3-1と勝利し、フランス勢は有終の美を飾り越年する。

■唯一最終節で負けなかったリヨン

 チャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦の組み合わせも決まり、リヨンはASローマ(イタリア)とリールはマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)と対戦することになり、特にリヨンの欧州制覇なるかが楽しみである。
 ここで気になることが1つある。それはグループリーグ最終節の戦い方である。リールのACミラン戦勝利の理由の1つにすでにACミランがグループリーグ首位を決めていたことがある。実は最終節を迎える段階ですでに首位を確定していたチームはグループEのリヨン、グループHのACミランに加え、グループCのリバプール(イングランド)、グループDのバレンシア(スペイン)の4チームである。このうちリヨン以外の3チームは、最終戦では敗れ、いずれも今大会初の敗戦を喫している。
 日本の文化ともいえる大相撲ですでに勝ち越しが決まった力士が千秋楽で勝ち越しのかかった力士相手に白星を献上することが定着しているのと同様、欧州の文化とも言えるサッカーで同じような事象が存在しているのである。唯一リヨンだけが引き分けとはいえ、勝ち点をあげている。欧州挑戦の歴史の浅いリヨンは、まだこの欧州の文化をよく理解していないと考えるべきなのか、それとも既成の概念とは違う新風を巻き起こすチームであるのか、決勝トーナメントの中でその答は明らかになるであろう。(この項、終わり)

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