第658回 新春の風物詩・フランスカップ(1) 古豪ニース、好調クレテイユを退ける

■リヨン独走のリーグ戦、カップ戦でタイトルを狙う他チーム

 国内のリーグ戦は前回紹介したとおり、リヨンが昨年を上回るペースで独走している。2位以下のチームにもチャンピオンズリーグをはじめとする欧州カップの出場権、降格争いなど見所は尽きないが、国内のタイトル争いとなるとフランスカップとリーグカップにかけるしかない。リーグカップはすでに準々決勝まで終了しており、リヨン-ルマン、ランス(Reims)-ボルドーと言う準決勝が1月中旬に予定されている。
 フランスのクラブチームにとって年明け最初の試合はフランスカップのベスト32決定戦である。このベスト32決定戦には1部リーグの20チームが参戦する。トップレベルのチームがフランス各地で蹴り初めをするシーンはフランスの風物詩となった。

■ジャイアントキリングの目立つベスト32決定戦

 過去の本連載で紹介している通り、このベスト32決定戦は例年下位リーグのチームが1部リーグの強豪を倒すいわゆるジャイアントキリングが多く見られる。この理由としては、年末年始に各クラブは短期間ながら休みを取り、休み明けと言うことで各チームのコンディションが十分でないこともあるが、なんと言ってもこのベスト32決定戦が下位リーグのクラブの本拠地で行われ、ジャイアントキリングをチームだけではなくファンも期待しており、地方の小競技場が満員になり、大声援を受けた小クラブが奮起するからであろう。そして例年のことであるが、これらの下位リーグに所属するチームの中にはフランスカップのスペシャリストとも言うべきチームも存在する。

■大物監督を獲得して盛り返したクレテイユがニースに挑戦

 まずは気になる1部勢の戦いであるが、先陣を切って登場したのは古豪ニースである。前半戦の成績は3勝7分6敗で19位、欧州カップへの出場権はこのフランスカップにしか可能性が残されていないと言えるであろう。望みをかけてニースは1月5日の夜にパリ近郊にある2部のクレテイユの本拠地に乗り込む。
 クレテイユは昨年のバカロレアでフランス国内で最も合格率の低かった地域であり、汚名返上にかけるクレテイユの関係者の思いも強い。しかし、今季は開幕から不振で第8節まで4分4敗と勝ち星がなく、最下位に低迷していた。開幕時の監督はかつてフランス代表のGKを務めたアルベール・ルストであったが、9月に解任し、オリビエ・フラポリが3試合指揮を取った後、10月に大物監督を招聘した。それが本連載第424回でも紹介したポルトガル人のアルツール・ジョルジュである。1980年代にFCポルトを躍進させ、欧州チャンピオンズカップを獲得している。その後、フランス国内ではラシンパリ、パリサンジェルマンの監督を務め、代表監督もスイス、ポルトガル、カメルーンで経験している。昨年3月にワールドカップ出場を逃した責任を取ってカメルーン代表の監督を辞し、フランスに戻ってきた。ジョルジュはパリサンジェルマンは2回監督を務めているので、フランスのクラブで4回目の指揮となる。名将と言われながら好成績を残すことのできなかったジョルジュであるが、クレテイユではその実力を発揮している。ジョルジュ監督の初戦はうれしい勝利、就任以来の成績は4勝3分2敗、順位を14位まで盛り返している。ジョルジュ就任までの成績は1勝4分6敗であるから見違えるような成績である。しかもホームでは4勝1分とファンを喜ばせ、このニースとの戦いには今季最多の6000人の観衆が集まった。

■緊迫した展開、延長戦でニースが振り切る好ゲーム

 試合は緊迫した展開となった。90分を終えて両チーム好機はあったものの、得点なく、延長戦に突入する。延長戦に入ってまもなく93分にママラ・バイルアのゴールでニースが先制、延長後半に入っても108分にもシリーユ・ロールが追加点を上げる。しかし、大観衆の声援を受けたクレテイユもこのままで引き下がるわけではなかった。116分にはポルトガル人監督を迎えて意気の上がるポルトガル人のカルロス・ホルヘ・ルイ・パタカが1点を返し、場内は騒然となる。
 しかしながら、残り4分をニースは守りきる。結局クレテイユは勝利をあげることはできず、ジョルジュ監督就任後初めてのホームでの敗戦となったが、今年初めてのトップレベルのサッカーの試合は好ゲームとなった。残りの試合、そして2007年のフランスサッカーも楽しみである。(続く)

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