第716回 2006-07フランスカップ・ファイナル(3) ジャック・シラク大統領、最後のフランスカップ
■カップファイナルで涙を飲み続けているマルセイユ
5月12日のフランスカップ決勝はマルセイユとソショーの顔合わせとなった。マルセイユは2年連続18回目の決勝進出で11回目の優勝を狙う。一方のソショーは19年ぶり5回目の決勝進出で2回目の優勝を狙う。マルセイユの最後の優勝はモナコに競り勝った1989年、ソショーのこれまで最後にして唯一の優勝は70年前の1937年のことである。
両チームに共通していえることであるが、決勝戦では負けが続いていることである。マルセイユは1991年にモナコに敗れ、2006年はパリサンジェルマンに競り負け、決勝で連敗中である。また1992年も決勝に進出しながらフリアニで行われた準決勝で仮設スタンドが崩壊する事故が起こったため、決勝が行われず、3大会連続で優勝を逃している。また、マルセイユは国内タイトル以外にもこの間1991年のチャンピオンズカップ決勝でベオグラード・レッドスター(ユーゴスラビア)に敗退、1993年のチャンピオンズリーグはACミラン勝利しながらタイトル剥奪、UEFAカップ決勝では1999年にパルマ(イタリア)に敗れ、2004年にバレンシア(スペイン)に敗れており、実に国内外あわせてカップ戦の決勝で7回連続してタイトルを逃している。
■70年ぶりの優勝を狙うソショーも決勝では3連敗中
一方のソショーは、1959年はルアーブルに敗れ、1967年はリヨンの前に屈し、1988年はメッスに王座を譲ってきており、マルセイユ同様フランスカップの決勝戦で3回連続して王座を逃している。ソショーは本連載の第322回の連載で紹介したとおり、2004年にこのスタッド・ド・フランスでナントを下し、リーグカップを制している。その時は66年ぶりのタイトル(ソショーは1937年にフランスカップを獲得した直後の1937-38シーズンのリーグ戦を制しているため、その時は66年ぶりのタイトル獲得と話題になったが、この日マルセイユに勝てば実に70年ぶりのフランスカップ獲得となるのである。
■フランスのクラブチームの試合で最多観客動員となった79,797人
さて、今回のフランスカップ決勝の主役は近年のカップファイナルで恵まれない成績の続くマルセイユと70年ぶりの優勝を狙うソショーだけではない。
この日の観客は実に79,797人、3月末のリーグカップ決勝の79,702人を上回り、スタッド・ド・フランスで行われたフランスのクラブチームの試合の最多観客動員となり、この観客もまた主役である。歴史に残る大観衆の中でソショーが優勝した際にすでに生を受けていた人はそう多くはないはずである。その数少ない70歳以上の1人が今年のフランスカップ決勝の主役であり、主役として最後のフランスカップとなる。それがジャック・シラク大統領である。共和国大統領はフランスカップ決勝に必ず列席する。1932年生まれのシラク大統領はソショーが優勝したときにはまだ4歳、1995年に大統領に就任し、1996年のフランスカップ決勝からほぼ毎年、決勝に列席し、フランスカップを授与している。シラク大統領の最初のフランスカップ授与はオセール、在任中の最多優勝はこのオセールと地元のパリサンジェルマンであり、それぞれ3回ずつ優勝している。サッカーの良き理解者であり、自国ならびにドイツで行われたワールドカップにも列席している。
■大統領として最後の試合となるシラク大統領
そのシラク大統領も12年間の任期(就任当初は7年間、法律改正が行われ2期目は5年間)を終え、大統領の座を離れることになる。試合前にはシラク大統領とジャン・フランソワ・ラムール・スポーツ相がピッチに降り立ち、両チームの選手と審判団を激励し、席に戻る。シラク大統領のそばにはラムール・スポーツ相の姿が見えるが、ニコラ・サルコジ次期大統領の姿が見えない。前任者に対する配慮から欠席したと言うことになっているが、当選してからの若者の暴動を考えれば、大観衆の前に姿を現すのをはばかるのも当然のことであろう。逆に任期満了まで5日となったシラク大統領にとっては、大統領として大人数で「ラ・マルセイエーズ」を歌うのはこれが最後となる。これまでのスタッド・ド・フランスの最多観衆記録は今年2月のフランス-アルゼンチン戦の79,862人であるが、この中には多くのアルゼンチン人も含まれているであろう。サッカーの試合として最も多くのフランス人がスタッド・ド・フランスに集まったのはこの夜であり、シラク大統領は最高の歌声に包まれて最後の試合に臨席したのである。(続く)