第830回 宿敵イングランドを迎える(3) 予選で敗退したメンバーがフランス入りしたイングランド

■14年ぶりに予選敗退となったイングランド

 前回までの本連載で紹介したとおり、A'代表は、昨年夏の編成以来ようやく3試合目で勝利を上げた。そして勝利しただけではなく、内容も良かったことから、その翌日にイングランドと戦うフル代表のメンバーもうかうかしていられない。
 イングランドは読者の皆様もよくご存知の通り、今年の欧州選手権の本大会の出場権を最後の最後で失っている。イングランドが欧州選手権もしくはワールドカップの本大会の出場権を失ったのは1994年ワールドカップ米国大会以来のことである。この1994年のワールドカップはイングランドだけではなくフランスにとっても本大会の出場権を失った最後の大会である。

■宿敵フランスに30年ぶりに差をつけられたイングランド

 1994年にはともに本大会の出場権を失った両国であるが、その次の1996年の欧州選手権から2006年のワールドカップまで6大会連続でイングランドとフランスは本大会に出場してきた。時代をさかのぼるならば、1992年欧州選手権は両国出場、1990年ワールドカップはイングランドのみ出場、1988年欧州選手権もイングランドのみ出場、1986年ワールドカップは両国出場、1984年欧州選手権はフランスのみ出場、1982年ワールドカップは両国出場、1980年欧州選手権はイングランドのみ出場となっており、それ以前の1970年代はフランスもイングランドもナショナルチームは低迷していた。長い歴史を振り返ると、イングランドとフランスが桧舞台に揃い踏みすることは珍しいケースであり、1990年代半ばから2000年代半ばまで続いたイングランドとフランスのアベック出場は、歴史の生み出した産物であろう。
 ライバル意識の激しい両者の関係において、今年の欧州選手権本大会のようにイングランドが出場できず、フランスが出場すると言うのは1984年の欧州選手権以来のことであるが、この時はフランスは開催国であった。今回のようにフランスが予選通過したのに、イングランドは予選で敗退したと言うケースは1978年ワールドカップが最後であり、イングランドのサッカーファンにとっては30年ぶりの屈辱である。

■予選敗退時とメンバーを入れ替えなかったファビオ・カペッロ新監督

 イングランドは昨年11月21日のウェンブリーでのクロアチア戦でのまさかの敗退で本大会の出場権を失ったわけであるが、新監督にイタリア人のファビオ・カペッロを迎えて再起を図ることになった。この新体制でフランスがスペインに敗れたのと同じ2月6日にスイスと親善試合を行っている。スイスは今回の欧州選手権の開催国であり、すでにこの親善試合の日程は予選開催中に決まっており、出場権を獲得したイングランドが開催国スイスへの顔見世試合であると誰しもが思っていたが、屈辱的な試合となった。そしてイングランドは予選敗退の汚名を返上すべく、2-1で開催国を破ったのである。
 今回のフランス戦も同様にかなり前から日程が決まっており、両国のメンバーの最終選考を兼ねて行う試合になるはずであったが、イングランドのファンにとっては目論見が外れた。イングランドはこのフランス遠征に23人のメンバーを選出した。予選敗退、新監督就任ともなればメンバー一新と思われている読者の皆様も少なくはないであろうが、実は新体制になってからメンバーに入った選手は皆無である。今回の予選敗退の屈辱を受けたメンバーが2010年の南アフリカでのワールドカップを目指すことになったのである。さらに代表から引退と思われていたダビッド・ベッカムを復帰させた。
 先発メンバーの代表歴をみると、これまで99試合に出場しているベッカムを筆頭に60試合以上出場した選手は4人、40試合以上出場した選手は8人、先発11人の代表歴の合計は529試合である。一方のフランスは、最多出場はリリアン・テュラムの137試合と追随を許さないが、60試合以上出場した選手は4人と互角であるが、40試合以上出場となると5人にとどまり、先発11人の代表歴の合計は513試合である。フランスの場合、代表歴が10試合以下の選手にジェレミー・トゥーラランとフランソワ・クレルクがいるが、イングランドの場合は代表歴が最も少ない選手は15試合のウェズ・ブラウンである。

■予想外の予選敗退に動じなかったのは1994年のフランスも同様

 フランスに今回のイングランドのケースを当てはめてみると、1994年ワールドカップ予選で敗退した時によく似ている。予選最終戦で想定しなかった敗戦を喫し、エメ・ジャッケ体制になったが、この時もメンバーは予選敗退時とほとんど変わらなかった。そして1996年欧州選手権ベスト4、1998年ワールドカップ優勝という流れの中で選手は入れ替わっていった。予想しなかった予選敗退にあわてることなく、メンバーを入れ替えないで次の目標に向かうと言うのは、多くの経験を積んできた欧州のサッカーの伝統と言えるのではないだろうか。(続く)

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