第842回 今ここで考えるフランス・サッカーの危機(4) 人種差別が原因でフランスを離れる選手たち
■人種差別問題でフランスを去ったパスカル・シンボンダ
前回の本連載ではサッカー場に人種差別問題、民族問題が入り込んできたことによってファンがサッカーに対して否定的なイメージを持つようになってきたことを紹介した。そして人種差別問題や民族問題はファンだけではなくいわゆるサッカーファミリーにも影響を与えている。
まず、前々回の本連載で自チームのファンから人種差別的な野次を受けてバスティアを去ったパスカル・シンボンダを紹介した。シンボンダはその前年の秋にもホームゲームのサンテエチエンヌ戦でチームメイトのコンゴ民主共和国出身のフランク・マタングとともに人種差別的な野次を受け、0-3と試合に敗れ、試合後の駐車場で自分の自動車をファンから襲撃されるという恐ろしい事件にも遭遇している。
このような事件に遭遇して、シンボンダはチームを離れ、そしてフランスを離れることになったのである。選手にとって耐え難い人種差別から逃れるためにフランスを離れていくことはフランスのサッカーにとって大きな打撃である。単純に年俸や移籍金だけで選手が国外に流出していくのではないのである。
■人種差別のない浦和レッズで活躍したバジル・ボリ
そしてこのような人種差別によりフランスを離れていった選手はシンボンダが初めてではない。古くは1996年にモナコから浦和レッズに移籍してきたバジル・ボリも同様である。オセール、マルセイユのストッパーとして活躍したボリは、コートジボワール出身の黒人選手である。フランス国内ではファンからの人種差別に悩まされ、フランスを離れる決意をする。1996年、1997年と2季、浦和レッズで活躍したが、グラウンドの内外で人種差別のない国であると日本のサッカーを高く評価している。ボリもシンボンダ同様に人種差別のない環境で活躍したことを忘れてはならない。
しかし、ボリも当初移籍しようとしていた他の日本のチームが黒人選手に難色を示し、浦和に移籍したという経緯がある。欧州まで届く昨今の浦和レッズの隆盛を聞くたびにこの浦和レッズの姿勢に感銘を受けるのである。
■人種差別廃絶キャンペーンも空しく、連続する人種差別事件
人種差別をグラウンドの内外からなくすことはフランスのサッカーにとっての課題であり、事件が起こるたびにサッカー協会やリーグ事務局は人種差別廃絶キャンペーンを行っている。
しかしながら、このような人種差別廃絶キャンペーンにもかかわらず、サッカー場での人種差別問題は後を絶たない。今年2月16日に行われたメッス-バランシエンヌ戦ではホームのメッスのファンがバランシエンヌの主将でモロッコ代表のアブデスラム・ウアドゥに対して人種差別的な野次を飛ばし、激昂したウアドゥが金網をよじ登って抗議し、野次の主は有罪判決、さらにメッスは勝ち点1を剥奪されている。
この事件を重く見て、リーグは選手会と協力し、3月1日には人種差別廃絶キャンペーンの試合としてユニフォームから広告のロゴを外し、人種差別廃絶のメッセージを書いたユニフォームで試合を行った。メッスは白いユニフォームで試合に臨み、選手が試合前に人種差別廃絶のメッセージが入ったTシャツをスタンドに投げ込んだが、そのTシャツを破るファンがいる始末である。
■人種差別的な横断幕が撤去されるまでキックオフを遅らせた主審
また、2月22日には2部の試合でも問題が起きている。バスティア-リブルン・サンスーラン戦でバスティアのファンが試合前にリブルン・サンスーランの選手に対する人種差別的なメッセージの横断幕を掲げる。この横断幕の撤去をこの日の主審のエリック・プラ氏は指示し、横断幕が撤去されるまで試合を開始しなかった。この試合はサッカーくじの対象試合でもあり、キックオフの遅れは別の意味で問題があったが、主審の英断により試合は3分遅れでキックオフされたのである。
そして、その翌月末にはリーグカップでのパリサンジェルマンの応援席からの「ようこそシュティの国へ」という横断幕の事件が起こったのである。
今シーズン終了後には欧州選手権が行われる。欧州選手権後には多くの選手が移籍することになるであろうが、人種差別問題を理由にフランスリーグから選手が流出していくことは避けなくてはならない。(続く)