第73回 開幕戦でセネガルに敗れる(3) 敗因3:過去1年間の親善試合のマッチメーキング
■脈絡の無いマッチメーキング
このシリーズの最初である前々回の連載の冒頭で「決して油断していたわけではなかっただろう。」と書いた。もちろんそれは事実であるが、ただ、これまでの親善試合のマッチメーキングを振り返ってみると「油断していたかもしれない」と思える節がある。
セネガルというチームはアフリカの代表であり、本大会初出場である。初顔合わせとは言ってもスカウティングは十分にしており、ほとんどの選手がフランスリーグに所属していることから情報は簡単に入手できる。他のアフリカの代表や欧州のチームよりも情報収集はやりやすいかもしれない。
しかしながら、初顔合わせとなるセネガルに対してチームとして十分に対応していたか、というとその答えは必ずしも「ウイ」ではない。フランス代表はワールドカップの直前の1年間に親善試合を繰り返してきたが、その相手はデンマーク、チリ、アルジェリア、豪州、ルーマニア、スコットランド、ロシア、ベルギー、韓国であり、ほとんど脈絡が無い。脈絡が無い「世界一周」のような対戦相手は「ワールドカップではどの国と対戦するかわからないので世界各地のサッカーに慣れるため」という理由で選ばれている。したがって、南米のチリ、アフリカのアルジェリア、オセアニアの豪州と対戦している。
■予選敗退国との多くの対戦
ところが、豪州はフランスと対戦した直後のプレーオフでウルグアイに敗れて最後のチケットを逃したが、チリは対戦する段階で南米予選では10チーム中9位と低迷し、アルジェリアはすでにアフリカ予選で敗退していた。また、年明けに対戦したルーマニア、スコットランドも今回のワールドカップは予選で敗退しており、新チームでフランスと対戦し、実力の差は歴然としていた。本大会出場を目前にしたロシア、ベルギーとの戦いの結果を見れば、本大会に出場する国と予選で敗退した国との力量の差は明白である。このように本大会出場を目指してチーム力も向上し、精神的にも充実しているチームと対戦する機会があまりにも少なすぎた。
■相手国のサッカースタイルを考慮していないマッチメーキング
さらに、相手国のサッカースタイルを考慮したマッチメーキングと言う点でも疑問符が残る。日本は仮想ベルギーということでノルウェーやスウェーデンと対戦している。
一方、フランスは組み合わせが決定する前に親善試合の相手を決定しているが、昨年10月アルジェリア戦はどうだろうか。対戦相手がアルジェリアに決定するまでには様々な政治的な思惑も影響していると思われるが、昨年夏の段階でアフリカ予選は大勢が判明し、いわゆる北アフリカからの代表はチュニジアだけで、それ以外の4か国はサハラ以南から名乗りをあげた。それならば、昨年10月のアフリカのチームとの対戦は本大会で当たる可能性の高い西アフリカのチームを選ぶべきではなかっただろうか。
また、フランスはアフリカの代表チームとは対戦歴が意外と少なく、過去の対戦もチュニジア1回、モロッコ4回、カメルーン1回、南アフリカ3回、アフリカ選抜1回という状態であり、今大会に3チームを送り込んだ西アフリカ勢との対戦はカメルーンと1試合対戦しただけである。しかもカメルーンと対戦したのは2000年10月。前回紹介したディディエ・デシャンとローラン・ブランの代表からの引退直後のことであり、パリでカメルーンと対戦し、ヨハネスバーグに移動して南アフリカと対戦する、という強行日程であったが、いずれの試合も引き分けに終わり、アフリカ勢をフランスが苦手にしていると言うこともよくわかる。
したがって、本大会出場の32チームの2割近くを占めるアフリカ勢対策は必須であり、その中で西アフリカ勢を重点マークするべきであったにも関わらず、北アフリカのアルジェリアを対戦相手として選んだのである。この対戦は本連載の第5回から第12回でご紹介したとおり、異常な関心を集めながら観衆の乱入により試合が中断されてしまった。もしもこの日にナイジェリアやカメルーンなどの西アフリカの強豪チームを招いていれば、興行的には振るわなかったかもしれないが、セネガル戦の結果も変わっていたかもしれない。
■釜山で問われる昨年9月の南米遠征の意義
そして6日の第2戦の相手はウルグアイである。昨年9月の南米遠征でフランスの選んだ相手は前述のとおりチリである。チリ戦については本連載がスタートした直後の第1回から第4回で紹介しているが、南米予選敗退がほぼ決定し、国民的英雄のイバン・サモラノの引退試合という位置付けであった。しかもその試合でフランスは敗戦している。1週間以上各選手を拘束しながら、これと言ってモチベーションの高くない相手に負けてしまった南米遠征の意義は何だったのであろうか。
さて、一方のウルグアイ、昨年11月の豪州とのプレーオフを前に豪州について相当情報分析を行ったと思われるが、そのスカウティングビデオはプレーオフを控えたメルボルンでのフランス戦に違いないであろう。セネガル戦と同じ結果にならないことを祈るばかりである(この項、終わり)