第955回 リトアニアに連勝(5) フランク・リベリーの一撃が呼んだアウエーの勝利

■大胆な選手起用のフランス

 リトアニアとの連戦、フランスはワールドカップ出場のためには連勝が必要である。逆に、フランスがここで連敗するようだと来年のワールドカップは遠くなる。その大一番にレイモン・ドメネク監督は、代表経験の少ない選手を大量に先発させただけではなく、守備の要のストッパーにウィリアム・ギャラスとセバスチャン・スキラッチという初めてのコンビ、さらには4年半ぶりに代表入りしたペギー・リュインデュラを初先発させるという大胆な選手起用を行った。

■リトアニア人飛行士、ステポナス・ダリウスとスタシス・ジレナス

 カウナスではほぼ2年前の同時期に試合を行っているが、今回もダリウス&ジレナス競技場で試合は行われる。1928年に完成し、1998年に改修したこの競技場のキャパシティは小さく、9000人の観衆が詰め掛けただけで超満員となった。2年前は8000人の観衆で満員となったが、この1000人の増加分はリトアニア代表に対するファンの期待が高まったことを意味しているであろう。
 ダリウスとジレナスというのはリトアニア人の飛行士の名前である。ステポナス・ダリウスとスタシス・ジレナスの2人は20世紀初頭にリトアニアから移民として米国へ移住した。米国で飛行士となった2人は在米リトアニア人飛行大会を主催した。そして彼らは祖国リトアニアへ飛行することを夢見た。その彼らの夢はリトアニカ号に乗って1933年7月15日にニューヨークを出発し、首都カウナスを目指し、実現するかに思われた。ところがニューヨークを出発して37時間後、ポーランド(当時はドイツ領)でリトアニカ号は謎の墜落、2人はその生涯を閉じたのである。そして現在のリトアニアの10リタス紙幣の表面には彼ら2人の肖像、裏面にはリトアニカ号が描かれているのである。

■懸念材料のグラウンド状態とリトアニア人のサポーター

 カウナスの気温は氷点下も予想されたが、4度。芝が凍結も懸念材料である。フランス代表は芝の状態を確かめることも兼ねて、リトアニアのイレブンよりも早く、キックオフの1時間以上前にピッチに姿を現す。芝は凍結していないが、グラウンドの状態はかなり悪い。
 そしてもう1つの懸念材料が、リトアニアの観客である。前回カウナスで試合を行った際、リトアニアの心無いサポーターたちが、「ようこそ、ヨーロッパへ」という文字とアフリカの地図を描いた横断幕を掲げ、フランス代表の黒人選手を侮蔑した。今回も主催者はかなり神経を使い、このようなフランスの黒人選手を侮蔑するような横断幕はなかった。

■守りを固めたリトアニアから得点をあげたリベリー

 さて、いよいよキックオフである。わずか2年とはいえ、2年前のカウナスでの試合に出場していたフランスの選手はわずか3人、ラッサナ・ディアラ、ジェレミー・トゥーララン、ウィリアム・ギャラスだけである。試合は開始早々からフランスが支配する。ここまで3勝1敗のリトアニアはフランスとの力関係の大きさに気がつき、守備一辺倒のホームゲームとなる。フランスもいくつかチャンスをつかむが、得点にはいたらず、ハーフタイムを迎える。
 この日、フランスのベンチには控えGKのウーゴ・ロリス、DF陣はフィリップ・メクセスとガエル・クリシー、守備的MFのアルー・ディアラ、攻撃的MFのヨアン・グルクフ、FWはカリム・ベンゼマとギヨーム・オアローである。何とかこの流れに乗ってゴールを奪いたいフランスはいち早くカードを切った。64分にリュインデュラに代えてベンゼマを投入する。そして一歩遅れてリトアニアも66分にトップ下の選手を代える。その直後のことであった。ラッサナ・ディアラが相手のパスをインターセプト、そしてフランスのトップ下のグルクフにつなぐ。ゴールからは20メートルほど離れていたが、グルクフはフランク・リベリーにパスをする。リベリーは強烈なシュートを放ち、これにリトアニアのGKは懸命にセービングするもわずかに届かず、値千金の得点となったのである。
 この得点をフランスは守りきり、アウエーで貴重な勝利を挙げる。この日の殊勲者は得点をあげたリベリーであるが、このところ得点またはアシストにからんでいるグルクフの存在も見逃してはならない。(続く)

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