第121回 スロベニア、マルタと連戦(6) マルタにも大勝、グランドスラムへ前進

■苦戦した3年前のロシア、アンドラとの連戦

 最大のライバルであるスロベニアに5-0と大勝したフランスは中3日でマルタと対戦した。ホームで強敵と対戦し、その4日後にアウエーで弱小国と対戦する、という連戦は前回の欧州選手権予選における1999年6月のロシア、アンドラとの連戦以来のことである。
 3年前は6月5日にロシアに2-3と敗れ、フランスにとってスタッド・ド・フランスでの初黒星となる。そして6月9日には欧州選手権初挑戦となるアンドラとアウエーで戦う。国内に大規模なスタジアムのないアンドラはホームゲームをスペインのバルセロナで行い、オリンピックでも有名なモンジュイックで試合が行われたのである。4日前の敗戦が尾を引いているのかフランスはなかなか得点をあげることができず、終了間際の85分にようやく得たPKを、フランク・ルブッフが慎重に決めて勝ち点3を獲得するという始末であった。

■弱小チーム相手の試合で控え選手をテスト

 アンドラ戦の苦戦はロシア戦敗退の精神的なダメージだけではない。それは選手を大幅に入れ替えて、バルセロナでの試合に臨んだため、選手の質、コンビネーションという意味で一段落ちるチーム編成になっていたからであろう。ちなみにこのアンドラ戦の先発メンバーを振り返ってみると、ロシア戦にも先発出場した選手は6人だけである。ロシア戦の先発メンバー以外でこのアンドラ戦に先発した選手はウルリッヒ・ラメ、クリスチャン・カランブー、ルブッフ、アラン・ボゴシアン、ビカトッシュ・ドラッソーといわゆる控え選手が中心であり、特にGKのラメはこれが代表デビュー戦であった。そして、両試合にフル出場した選手はマルセル・デサイー、シルバン・ビルトール、ニコラ・アネルカの3人に過ぎない。前回の欧州選手権予選では中3日の連戦がこのロシアとアンドラとの連戦を含み4回あったが、これほどまで選手を入れ替えた例は他にはなかった。
 予選が佳境を迎えた1999年9月には旧ソ連のウクライナ、アルメニアとアウエーで連戦を行う。もう負けることのできないフランスは、キエフで7万の大観衆を敵に回してスコアレスドローで乗り切った4日後、アルメニアの首都エレバンで3-2とアルメニアに勝ち、欧州選手権出場の望みをつないだが、アルメニア戦に先発したイレブンのうち9人はウクライナ戦にも先発したメンバーだった。
 すなわち、予選とは言え、自力の差があることから選手の調整やテストに使うことのできる試合の場合は中3日の連戦で選手を入れ替えるが、どうしても落とせない試合の場合はベストメンバーで連戦を乗り切ることになる。そのような観点で今回のマルタ戦は、両国の実力に大きな差があり、最大のライバルであるスロベニアに大勝したことから、マルタ戦は選手を大幅に入れ替えるチャンスである。また就任間もないジャック・サンティーニ監督が毎試合新たな戦力をテストしていることも、大胆な選手起用が期待された。

■スロベニア戦と全く同じ先発メンバー

 しかし、ナポレオンがこの島を訪れてから200余年、現代のフランスの指揮官は慎重であった。首都ラバレッタの姿を現したイレブンはなんと4日前にサンドニのピッチでラ・マルセイエーズを聞いたメンバーと全く同じであった。負傷で出場が危ぶまれたティエリー・アンリも元気に姿を現す。スロベニア戦と同じメンバーであり、フォーメーションも明確に4-4-2システムとなり、アンリとスティーブ・マルレが2トップを組み、その後方にはジネディーヌ・ジダンとシルバン・ビルトールが控える。

■アンリ復調、大量得点で3連勝

 試合開始からマルタはフランスに対し、前回紹介したマルタ騎士団あるいは二度の世界大戦中のように、勇敢な戦いを挑むが、ことごとくオフサイドとなり、得点には結びつかない。一方、フランスは体調不十分が伝えられたアンリが立ち上がりからゴールを脅かし、25分と36分に得点をあげる。ワールドカップをはさんで得点をあげることができなかったアンリにとって今年3月のスコットランド戦以来のゴールとなった。後半に入って59分にビルトールが3試合連続となる得点をあげ、勝負はつく。そしてようやくサンティーニ監督が選手交代を命じたのは70分を過ぎてからであり、パトリック・ビエイラに代えてオリビエ・ダクール、アンリに代わってエリック・カリエールを投入する。カリエールはジダンの代役としてではなく、ジダンと組んで試合に出場することを希望しており、84分に得点をあげて4-0とスコアは広がる。そこでDFのフィリップ・メクセスがリリアン・テュラムに代わって出場し、代表にデビューしたのである。
 終わってみれば4-0の完勝であり、3連勝となる。今回の予選でフランス以外に3連勝しているのはトルコとブルガリアだけである。1992年欧州選手権スウェーデン大会の予選以来のグランドスラムも期待できそうである。(この項、終わり)

このページのTOPへ