第247回 欧州選手権予選最終戦(1) 「グランドスラムへの執念」と「民族の意地」
■アラブチャンピオンズリーグのインパクト
前回、前々回とフランスとかかわりの深いアラブのサッカーの変化について紹介した。これまで、欧州、アフリカなど地理的なブロックで行われた各種の大会に加え、「アラブ」という文化的・社会的なブロックで行われる「アラブチャンピオンズリーグ」は大きなインパクトを与えることになるであろう。サッカーに限らずスポーツが文化・社会と密接に関係あるものであるならば、地理的なつながりよりも文化的なつながりの方が強固であり、アラブ社会を対象にしたテレビ局がスポンサーとなって中継を行うことから、従来の大陸別大会以上の注目を集めることは明らかであり、アラブ社会の結束をさらに強めることになるであろう。
アラブチャンピオンズリーグの発足は、従来フランスのクラブが吸引していた北アフリカの選手が国内にとどまる可能性が高まるとともに、これらの地域の多くではフランス語が話されることから、フランス語圏としてのレベルアップが期待できる。そして従来、クラブよりはナショナルチームという指向のあったアフリカや中東においても欧州同様のクラブチーム優先という流れが生まれることになり、代表チームがクラブチームよりも注目を集めるのは地球上では南米と東アジアなど限定された地域になるであろう。北アフリカや中東に近い欧州ではますます代表チームの注目度が低くなっていくであろう。
■日本代表のアラブ遠征
アラブ社会の結束の強化、代表チームの人気低下という2つの流れの中で10月上旬には国際試合が行われた。日本もチュニジアに遠征したが、イラク問題で米国寄りの姿勢をとり続けていた日本がアラブの国と親善試合を行うというのは日本外交筋の重要な方針転換であろうか。それとも原子力発電所の稼動停止に伴うエネルギー危機の下で、産油国である中東諸国との関係改善が見られないことを見越して、同じアラブ圏でも北アフリカの産油国であるチュニジアとの関係強化という経済界からの要請を受けたものであろうか。いずれにせよ政治・経済の大国である日本の深謀遠慮がうかがわれる遠征である。
■民族の存在感のアピールに燃えるイスラエル
10月11日は欧州選手権予選の最終戦が行われる。すでに本大会への出場を決めているフランスはホームのスタッド・ド・フランスにイスラエルを迎えて戦う。一方のイスラエルは9月10日の試合でそれまで7戦7敗だったマルタにまさかの引き分け、グループ1で3位以下が決定してしまい、来年の本大会出場は果たせなかった。「消化試合」となってしまったこの試合であるが、両チームにとって意地を見せなくてはならない試合である。
まず、イスラエルについては自らを包囲するアラブ諸国が大同団結してアラブチャンピオンズリーグを発足させ、民族主義が高揚する中でユダヤ民族の存在を知らしめなくてはならない。しかも舞台は世界中でも多くのイスラム系選手が活躍する国であるフランスのメインスタジアム、相手は前回優勝のフランスである。ユダヤ民族の力を見せるのにこれ以上ふさわしい場所と相手はない。
■史上3度目のグランドスラムを狙うフランス
一方のフランスはチェコ、スウェーデン、ブルガリアとともにすでに本大会出場を決めている。しかし、この中で全勝しているチームはフランスだけである。フランスは最終戦になるイスラエル戦で「グランドスラム」をかけて戦うことになる。1992年欧州選手権予選の際に8戦全勝でグランドスラムを達成したことは本連載でもしばしば紹介しているが、それ以外に欧州の予選でグランドスラムを達成したのは2000年欧州選手権予選のチェコだけである。欧州史上3回目、そしてフランス自身2回目となるグランドスラムを達成してこそ、フランスは昨年の韓国での悪夢を忘れることができる。
消化試合とは言え、両国にとって今年最後の公式戦となる。「グランドスラムへの執念」か「民族の意地」か、そして両国イレブンに共通するのは「代表チームのプライド」であり、目の離せない一戦である。(続く)