第248回 欧州選手権予選最終戦(2) 栄光のグランドスラム達成

■3つの意味を持つイスラエル戦

 すでに欧州選手権の予選突破を決めているフランスにとって、予選最終戦となったイスラエル戦は3つの意味がある。まず、本大会が8月後に行われることを考えるならば、すでにこの試合も本大会まで残された時間の中で貴重な調整のための試合である。そして、これまでの予選7試合で7戦全勝という成績を残していることを考えるならば、予選全勝、すなわちグランドスラムを達成したいところである。さらに、本連載第246回で紹介したアラブチャンピオンズリーグの発足によってクラブチームの台頭が欧州だけではなく中東・北アフリカまで広がるならば、代表チームの復権のためにも下手な試合はできない。

■代表選手の選出方針を変更したジャック・サンティーニ監督

 まず、第1点の本大会に向けた準備という点であるが、本連載を開始した2年前の同時期を思い起こしていただければ、いかに重要なことかよくわかるであろう。2000-01シーズンに、フランスはブラジル、ドイツ、トルコ、韓国とワールドカップでベスト4に残ったチームと戦い、全勝するという素晴らしい成績を残した。ところがワールドカップまで1年を切った段階の秋に、チリ、アルジェリア、豪州と対戦し、結果として強化にはつながらなかった。この歴史を繰り返すべきではないであろう。就任以来、メンバーを常に入れ替えてきたジャック・サンティーニ監督がどのようなメンバーを選ぶかが注目された。10月初めに発表された19人のメンバーには意外なメンバーの名前が2つあった。まずはGKのファビアン・バルテス、過去の実績だけ考えれば、押しも押されぬ正GKかもしれないが、所属するマンチェスター・ユナイテッドでは出場機会に恵まれていない。もう1人はラツィオ・ローマで今季わずか110分しかピッチに立っていないウスマン・ダボである。就任以来、サンティーニ監督は代表チームの戦術にフィットした選手よりもむしろ所属チームでよい実績を残している選手を選出してきた。それが結果としてビッグクラブではなくフランス国内のクラブの選手、若手選手に光をあてることとなってきたが、今回ばかりは所属チームでの活躍よりも代表チームでの戦術への適応という観点でメンバーを選考したようである。この方針変更が吉と出るか凶と出るかは8か月後のポルトガルでの戦いまで待たなくてはならない。

■10年前の10月にパリで勝利したイスラエル

 そして、グランドスラム達成の対象となるイスラエルはすでに予選敗退が決定しているとは言え、アラブ勢力の台頭に対する対抗心をパリの地で世界中に示したいところである。過去のフランスとの対戦成績は1勝2分3敗、唯一の勝利はちょうど10年前の10月13日。豪雨のパルク・デ・プランスでロスタイムに勝ち越し点を奪っている。
 最後に代表チームの復権という点であるが、ちょうどラグビーのワールドカップが開幕したこともあり、サッカーの対する注目度は低くなっている。相変わらずチケットの売上げは難航し、直前までプロモーションを行ってもチケットはさばけず、しかもチケットの相当数はパリ在住のユダヤ人が購入したものと思われ、スタッド・ド・フランスのオープン直後に青く染まった光景は前世紀のものとなってしまった。

■ビューティフルゴールの連続、グランドスラム、タイ記録の12連勝

 スタッド・ド・フランスに集まった観衆は5万7900人。数時間前にブリスベーンで行われたラグビーのワールドカップのフィジー戦に完全に主役を奪い取られた形になった。しかし、それでもキプロス戦よりも若干多い観客が集まったのは、スタンドのあらゆる場所に見られるダビデの星の旗を持ったパリ在住のイスラエル人のおかげであろう。10月初めのメンバー発表時からフランスは負傷などによるメンバー変更を行い、代表出場歴のないアントニー・レベイエール、代表チームに招集された経験のないセバスチャン・スキラッチという2人のDFを追加招集している。このうちレベイエールが先発メンバーとしてスタッド・ド・フランスのピッチ上でラ・マルセイエーズを歌った。マルセル・デサイーの負傷欠場により、ストッパーにジャン・アラン・ブームソンが入り、キャプテンマークはジネディーヌ・ジダンがつける。
 試合は8分にティエリー・アンリがアーセナルの同僚であるロベール・ピレスと見事なワンツーを見せて先制点、24分にはショートパスが次々とつながり、最後はダビッド・トレズゲがゴール。見事な追加点であった。前半終了直前の42分にはジダンのFKをブームソンがヘッドであわせて代表初ゴール。このまま後半も乗り切り、3-0でフランスは完勝する。これでグランドスラムを達成、そして3月のマルタ戦以来12連勝となり、フランス代表の連勝記録にも並んだ。来年のポルトガルでの活躍が楽しみである。(この項、終わり)

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