第343回 フランス、3試合連続の逆転劇で初戦白星

■試合に微妙な影響を与えたフランスの先発メンバー

 本連載第341回ではフランス-イングランド戦の勝敗予想の解説を行ったが、読者の皆様もご存知の通り、見事外れてしまった。注目のフランスの先発メンバーはGKにファビアン・バルテス、ディフェンスラインは右サイドにウィリアム・ガラス、ストッパーにミカエル・シルベストルとリリアン・テュラム、左サイドにビシャンテ・リザラズ、MFは守備的な位置にパトリック・ビエイラ、クロード・マケレレ、攻撃的な位置は右にロベール・ピレス、左にジネディーヌ・ジダン、FWはティエリー・アンリとダビッド・トレゼゲ、負傷していたトレゼゲが復帰した以外は6月6日のウクライナ戦と同様であった。
 GKにグレゴリー・クーペではなくバルテスを起用したこと、そして主将のマルセル・デサイーが負傷により欠場したことが、この試合の展開に微妙に影響した。ストッパーのデサイーの負傷欠場によって、本来ストッパーでチェルシーのチームメイトであるガラスをサイドバックに起用し、逆にサイドバックを務めているテュラムをストッパーとして起用する。また、デサイーに代わるキャプテンはジダンが務めた。

■わずか3分間の後半ロスタイムにジダンが2ゴール

 試合は38分にデビッド・ベッカムのFKをフランク・ランパードがヘディングで合わせ、イングランドが先制点。後半に入って70分にウエイン・ルーニーに振り切られたシルベストルがペナルティエリア内でたまらずファウル、PKをベッカムが蹴ったが、バルテスがこのピンチを防ぐ。そして、90分にマケレレが倒されて得たFKをジダンが見事に左隅に決める。さらに93分、スティーブン・ジェラードのGKデビッド・ジェームズへの力のないバックパスを追ったアンリがジェームズに倒されてPK、このPKをジダンが決めたところで試合終了となり、わずか3分間の後半ロスタイムの2ゴールでフランスが逆転勝ちを収めた。

■見事的中したジャック・サンティーニ監督の采配

 この試合の第一のターニングポイントは70分のベッカムのPKをバルテスが止めたことである。クラブで出場機会に恵まれないバルテスではなく、5月のブラジル戦とアンドラ戦で活躍したクーペを起用すべきという意見も少なくなかったが、ベッカムのマンチェスター・ユナイテッドでチームメイトであったバルテスを起用したジャック・サンティーニ監督の采配が見事的中した。
 そして77分にスピードのあるルーニーがベンチに退いたのを確認するとともに、フランスはディフェンスラインを入れ替える。シルベストルに代えて、サイド攻撃力のあるビリー・サニョルを投入して右サイドに配置し、それまで右サイドDFだったガラスがストッパーの位置に入る。このサニョルの投入が終盤のフランスの波状攻撃をもたらした。守備に入ったイングランドが、フランスの波状攻撃に対して危険地域でファウルを犯すことにつながった。
 さらに鬼気迫る形相でFK、PKを成功させたジダンの左腕には白いキャプテンマークが巻きつけられていた。主将としてのデビュー戦が黒星だったジダンはその悔しさを忘れてはいないはずである。イングランドの主将はレアル・マドリッドの僚友ベッカム、そのベッカムの見事なFKとPK失敗を目の当たりにしたジダンは終了前の3分間にやってきたFKとPKのチャンスをいずれも成功させたのである。

■4試合連続の2-1、3試合連続の逆転勝利、2試合連続のロスタイムのゴール

 欧州選手権の本大会に限って振り返ってみると、前回の欧州選手権準々決勝のスペイン戦以来、4試合連続で2-1というスコアで勝利をおさめた。そして前回準決勝のポルトガル戦以来3試合連続で逆転勝ちである。そして前回決勝のイタリア戦も0-1とリードされた後半ロスタイムに同点に追いつくという展開であり、追加点のチャンスをいかせずに守りに入った相手に、交替出場の選手が活躍して追いつき、逆転するという類似点がある。
 4年前のロッテルダム、もう2度とないであろうと言われた逆転劇が、こうも簡単に再現されてしまった。14年前にベンフィカを率いてマルセイユに勝利したゴラン・エリクソン監督にとってあまりにも残酷な里帰り第1戦となったのである。(この項、終わり)

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