第347回 グループリーグ最終戦のスイス戦(2) 快勝、グループリーグを1位で突破
■音楽祭りの夜と重なったグループリーグ最終戦
グループBの最終戦は21日夜、おりしも年に1度の音楽祭りと重なってしまうが、音楽がフランス中の路上やカフェであふれるこの夜、テレビ中継を気にしながら音楽を楽しむ市民の姿も少なくない。コインブラでスイス-フランス戦、リスボンのルス競技場でクロアチア-イングランド戦が同時刻にキックオフされ、それぞれの試合でいずれか1チームが決勝トーナメントに出場することになる。フランスはスイス戦に勝利すれば、グループ1位となる。引き分けの場合、あるいは2点差以内の負けの場合も決勝トーナメント進出となるが、順位はクロアチア-イングランド戦の結果次第である。
■グループリーグ1位突破を望むフランス
フランスは、スイスに大敗してグループリーグ敗退することは許されないが、決勝トーナメントの初戦である準々決勝で対戦する相手が気にならないはずがない。本連載第342回でご紹介したとおり、フランスの準々決勝の対戦相手と日時、場所はグループリーグで1位になればグループAで2位のチームと25日にリスボンのジョゼ・アルバラーデ競技場で対戦、グループリーグで2位になればグループAで1位のチームと24日にリスボンのルス競技場で対戦することになる。そしてグループAはグループBよりも1日早く日程を消化しており、1位は開催国ポルトガル、2位は伏兵ギリシャである。
フランスはスイス戦に勝てばグループリーグ1位が確定するが、前回の欧州選手権同様、あえて勝利を欲さず、グループリーグで2位を狙うことも可能である。しかし、今回ばかりはそのような配慮は不要である。上記の通り、グループBで2位になれば、試合日程が1日早まるだけではなく、対戦相手は地元のポルトガルである。開幕戦でポルトガルに勝ったギリシャもあなどるわけにはいかないが、スペインとのイベリア決戦を内容のある試合で制してきたポルトガルとの対戦は避けたいところである。本連載第342回ではグループAから決勝トーナメントに進出するチームがスペインとポルトガルであると想定し、両チームはグループリーグ最終戦をリスボンで戦い、決勝トーナメント初戦も同じリスボンで戦うことができるので準々決勝はグループAを勝ち抜いたイベリア両国が有利と述べた。しかし、伏兵ギリシャがイベリア勢を沈黙させ、2位に入ったことから状況は変わっている。ベースキャンプをポルトの近郊に置くギリシャは、グループリーグ最終戦のロシア戦を最南端のファロ/ローレで行い、準々決勝の行われるリスボンへの移動の疲労も考えられる。したがって、フランスにとってグループリーグの順位は1位以外考えられない。
■ついに活躍、ティエリー・アンリ
試合はフランスがこれまでの2試合とは見違えるような動きを見せた。20分にはロベール・ピレスからのCKをジネディーヌ・ジダンがヘッドで先制、6分後に追いつかれ、前半はタイスコアのまま終了する。そしてリスボンの試合はクロアチアが先制したが、イングランドが40分にポール・スコールズのゴールで追いつき、前半ロスタイムにウエイン・ルーニーのゴールで逆転している。このままフランスが引き分け、イングランドが勝つと、フランスはグループリーグ2位に甘んじてしまう。勝ち越し点を熱望していたフランスのファンに応えたのがティエリー・アンリであった。2002年ワールドカップでは精彩を欠き、今大会も期待されながら、これまでの2試合ではノーゴール。そのアンリが76分、84分と連続ゴールを奪い、スイスに勝利してグループリーグを1位で突破する。
■苦戦から学んだ3点をいかした選手起用とシステム
さて、フランスにとってはようやく会心のゲームとなったが、これはそれまで苦戦した2試合で3つのことを学び、選手起用とシステムを変えたからである。3つの学んだ点とは、第1点としてベテランのマルセル・デサイーは残念ながらレベルに達していないということ、第2点としてサイドバックには攻撃のできる本職の選手が必要であること、第3点としてやはり攻撃の中心はジダンであること。この3点からディフェンスラインは右にビリー・サニョル、左にビシャンテ・リザラズ、ストッパーにリリアン・テュラムとミカエル・シルベストルという布陣とした。そして4-4-2システムで攻撃的MFとして左にジダン、右にピレスという布陣ではなく、ジダンを中心に配置し、ピレスを下げる4-3-1-2システムへと変更している。グループリーグ最終戦でベストメンバーを見出したというのは1996年欧州選手権を思い出す。もちろん、ファンの期待は1996年大会の再現ではなく、2000年大会の再現である。(この項、終わり)