第352回 欧州選手権を振り返って(1) 有力リーグを持つ国が早期に敗退
■初物づくしの欧州選手権
ギリシャの優勝で幕を閉じた欧州選手権。ギリシャが初優勝したばかりではなく、初物づくしの大会だった。まず、ポルトガル、ギリシャともに初めての決勝進出であった。そしてこの決勝戦は開幕戦のカードと同一であり、史上初めてのことである。そして優勝監督となったギリシャのオットー・レハーゲル監督はドイツ人であり、史上初めて外国人の優勝監督であった。そして開催国のポルトガルは決勝で敗れたが、開催国が準優勝と言うのも初めてのことである。このように史上初と言う形容詞のつく大会であった。
■見事な戦いを見せたノーマークのギリシャ
しかし、なによりも衝撃的であったのは、ギリシャと言う今まで欧州選手権やワールドカップの本大会でほとんど実績がなく、さらにクラブレベルでも決して強豪と言われるようなチームを有していない国が優勝したことであろう。開幕戦でポルトガルを破り、続くスペインともドロー、ロシア戦こそ敗れ、グループリーグ2位突破まではフロックか、と思われた方も少なくはないであろう。恥ずかしながら筆者も本連載第340回で全試合を予想したが、ギリシャの勝敗予想は全て外れ、グループリーグ3位で大西洋での戦いを終えて、エーゲ海でのバカンスに入るはずであった。しかし、決勝トーナメントに入ってからは文句の付けようがない。準々決勝ではフランスと対戦したが、本連載第348回から第350回で紹介したように、フランスを撃破。そして優勝候補の呼び声高かったチェコと準決勝で対戦し、延長前半のシルバーゴールで決勝進出。そして開催国ポルトガルとの決勝も見事な戦いぶりで、結局、決勝トーナメント3試合は全て1-0という最少得点、無失点で堂々の優勝である。6月25日の準々決勝でフランスがギリシャに敗れて以来、キーボードをたたくペースも落ち気味であった筆者であるが、準決勝、決勝ではさらに素晴らしい戦いぶりであり、ギリシャの優勝には心から敬意を表したい。
■有力リーグを持つ5か国が次々と敗退
さて、筆者は5月に日本のNumber PLUSという雑誌に欧州選手権について「欧州統合の夢とユーロの意義。」というタイトルで寄稿している。その中で「クラブチームの戦いはそのクラブあるいはリーグのある国の経済力に比例した結果になるが、代表チームの場合、その非日常性がゆえに番狂わせが多くなる。欧州の国際試合で偶然性、非日常性を見ることができるのは代表チームの試合だけである」という趣旨のことを書いた。まさに本大会ではその通りとなり、欧州四大リーグと言われるリーグを抱えるスペイン、イタリア、イングランド、ドイツが早々に敗退している。特にイタリア、スペイン、ドイツはグループリーグで姿を消している。また欧州で5番目のリーグを持つフランスについてもベスト8どまりであった。すなわち、欧州の4大リーグあるいは5大リーグと言われるリーグを持つ国が1つもベスト4に残ることができなかったわけであり、番狂わせと感じる人もいらっしゃるであろう。
■予選で好成績のAシード4か国はグループリーグトップ通過
しかし、今大会が番狂わせの連続であったと判断するのは正しくないであろう。本連載第265回で本大会の組み合わせ方法について紹介したが、今大会の予選と2002年ワールドカップ予選の成績を合計して参加16チームをAシードからDシードの4段階に振り分けている。優勝したギリシャはDシードであり、優勝国だけを見れば「大番狂わせ」であるが、なんとAシードの4か国は全てグループリーグを首位で通過している。また、欧州の4大リーグを有するスペイン、イタリア、イングランド、ドイツはいずれもBシードであり、リーグ戦の合間に行われる予選段階から代表チームをしっかりとマネジメントしないと、予選では好成績を残すことができないことがわかる。今大会は予選の段階からしっかりと準備をしてきたチームが上位に進出することを証明したのである。フランスだけが予選での好成績を本大会に持ち込むことができなかったと言えるであろう。(続く)