第870回 惨敗を振り返って(4) 不運が重なった今回の代表チーム
■唯一の実力による第1シードのオランダと同グループ
前回までの本連載は、レイモン・ドメネク監督の選手選考と本大会に入ってからの3試合における采配について国民からの批判を紹介してきた。確かに、ピッチに送りこむ11人を決定した監督の責任は重いであろう。しかし、敗因は決してそれだけではない。
やはり「死のグループ」に入ってしまったということで選手やスタッフ、そしてファンも過度に反応してしまったのではないだろうか。今回の本大会の組み合わせ抽選は昨年12月2日に行われ、この模様については本連載の第790回と第791回で紹介している。
これまでも書いてきたとおり、参加16チームを第1シードから第4シードまで4チームずつに分けて、本大会のグループリーグの組み合わせ抽選を行った。このシード分けは今回の欧州選手権と2006年のワールドカップ予選の予選における成績を指数化したものであり、フランスは第4シードにとどまっている。また第1シード4か国には開催国のスイスとオーストリア、前回優勝のギリシャという3チームが入っており、実力すなわち予選の成績で第1シード入りしているのはオランダだけである。そしてこの第1シード国4か国のうち、オランダだけがグループリーグを突破しており、オランダだけが第1シードにふさわしい結果を残しているのである。
つまり、オランダと同じ組に入ってしまったことがフランスにとって最大の不運であると言えよう。第2シード以下のチームがオランダと対戦する確率は4分の1、占星術がお気に入りのドメネク監督をもってしても、このくじを避けることができなかったのである。
■シード順と本大会の成績が比例しなかった今大会
そして、フランスが第4シードになってしまった経緯は先述の本連載第790回で紹介したほか、欧州選手権予選の最終戦であるウクライナ戦の際にも紹介している。今大会の成績とシード順を振り返ってみると優勝したスペインも準優勝のドイツも第3シード、ベスト4のロシアとトルコはいずれも第4シード、準々決勝で敗退した4チームは第1シード1チーム(オランダ)、第2シード2チーム(クロアチア、イタリア)、第3シード1チーム(ポルトガル)と言う内訳である。結局一番成績が良かったのが第3シード(優勝、準優勝、準々決勝)であり、それに次いで第4シード(準決勝2チーム)、そして第2シード(準々決勝2チーム)、一番成績が悪かったのが第1シード(準々決勝1チーム)と言う結果になっている。これほどシード順と成績が比例しないケースも珍しいであろう。
■フランスを第4シードにとどまらせたスコットランドでのイタリアの勝利
結果的には、予選の終盤でイタリアがスコットランドで勝利せず、フランスが予選最終戦のウクライナ戦で勝利が必要な状況になっていれば、フランスはウクライナ戦に勝利して、第3シードに食い込んでいたであろう。フランスが第3シードに浮上すれば、優勝したスペインは第4シードに沈んでおり、グループリーグで3戦全勝、決勝トーナメントでも1PK勝ちを含み3連勝と言う成績を残すことができなかったかもしれないのである。
■ベテラン選手によりメンバーの固定化が初めて裏目に
そして忘れてはならないのが、メンバーを固定化したベテラン選手たちの所属クラブでの成績である。所属クラブでの精彩を欠く選手が代表チームでも本調子に戻ることができないままにスイス入りし、スイスでも同様の結果になった。結果論として所属クラブで実績を残している若手選手への切り替えが遅れた、と言うことは簡単であろう。しかし、混成チームである代表チームにおいて選手を変えることは勇気のいることである。
フランスはこれまでも所属チームでの調子に関わらず、代表チームのメンバーを固定化し、好成績を残してきた。2000年の欧州選手権を制した際は、守備陣は全く変えず、固定メンバーが抜群のチームワークで劇的な勝利の基盤となった。今回も若手選手をA'代表として大量に招集しながら、結果的に抜擢されたのはスティーブ・マンダンダ1人、そしてマンダンダは本大会では出場の機会に恵まれなかった。
結果論ではあるが、フランス代表の場合、これまでベテラン選手によるメンバーの固定化が、奏功し続けてきた。2002年の敗退は固定メンバーの主要人物であるジネディーヌ・ジダンが欠けたことが原因である。今回初めてベテラン選手によるメンバーの固定化が裏目に出た。これもまた不運であったと言えるであろう。(この項、終わり)