第1167回 ルーマニア、ルクセンブルクと連戦 (8) ルクセンブルクのサッカーとゆかりの深いメッス
■ロビー・ランジェを獲得したメッス
今回のフランスとルクセンブルクの試合はメッスのサン・サンフォリアン競技場で行われるが、ロレーヌ地方の中心であるメッスからルクセンブルクまでわずか50キロ、その地理的な条件も加わり、経済面、生活面でメッスとルクセンブルクの交流は深い。そしてこれはサッカーの世界でも当てはまる。
前回の本連載の最後に紹介したロビー・ランジェはニース時代の活躍がフランスのサッカーファンの記憶に残るが、ルクセンブルク国内で最も有力なユニオン・ルクセンブルクからドイツのボルシア・メンヘングランドバッハに移籍した。ボルシア・メンヘングランドバッハは1978年にジャパンカップを獲得したのに続き、1982年にはUEFAカップを獲得しているビッグクラブであり、その3人目の外国人選手としてランジェは加入したが、あまり活躍の場はなかった。そこに目を付けたのがメッスである。メッスはランジェを獲得し、マルセイユにレンタル移籍させ、その後メッスの選手として起用し、その後のニースでの活躍へとつながっていく。
■19歳以下ルクセンブルク代表だったミラレム・ピヤニッチ
ルクセンブルクとは近いメッスはランジェだけではなくたくさんのルクセンブルクのトップレベルの選手が所属してきた。そしてその中には現在リヨンに所属し、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表のミラレム・ピヤニッチもいる。ピヤニッチはボスニア・ヘルツェゴビナ出身であるが内戦により難民となり、ドイツを経由してルクセンブルクに移り住み、ボスニア・ヘルツェゴビナだけではなくルクセンブルクの国籍も所有している。19歳以下のルクセンブルク代表の経験もあるが、現在ではボスニア・ヘルツェゴビナ代表の一員である。そしてリヨンのメンバーとしてチャンピオンズリーグを戦っているが、ルクセンブルクのクラブからまずメッスに移籍したことがフランスのクラブで活躍するきっかけとなっている。
そしてメッスは今年の2月にルクセンブルクでルクセンブルク代表と試合を行い、1-0と勝利している。
■メッスに所属するマリオ・ムッチェ、8季在籍したジェフ・シュトラッサー
ルクセンブルクの選手だけではなく、ロベール・ピレス、アンドレ・レイなどの名選手を生み、欧州カップでも活躍したメッスは2008年に2部に降格したままであり、今世紀になってからはフランス代表に選手を送り込んでいない。また、収容人員2万7000人を誇るサン・サンフォリアン競技場でフランス代表が試合をしたのはただ1回、2005年5月31日のハンガリーとの親善試合だけなのである。また、メッスは2部であり、メッスのサン・サンフォリアン競技場で試合をしたことのあるフランス代表選手もそう多くはないであろう。
ところが、一方のルクセンブルク代表の選手にとってこのサン・サンフォリアン競技場はなじみのあるサッカー場である。まず、FIFAランキング130位というルクセンブルクのメンバーのうち唯一のプロ契約選手はメッスに所属するマリオ・ムッチェである。またルクセンブルク代表として97試合出場という最多記録保持者である36歳のジェフ・シュトラッサーは昨年までメッスに所属しており、8シーズンにわたって活躍し、現在はルクセンブルクのクラブでアマチュアとしてプレーしている。
■メッスでポルトガルと試合を行ったルクセンブルク
驚くべきはルクセンブルク代表がこのサン・サンフォリアン競技場で試合を行っているということである。2006年ワールドカップ直前の6月3日にルクセンブルクはポルトガルと親善試合を行う。現在のルクセンブルクにはポルトガル人が多数住んでおり、ルクセンブルク側が準備した収容人員8000人のジョスィ・バルテル競技場では間に合わず、国境を越えたフランスで試合を行ったのである。
このようにルクセンブルクのサッカーはメッスとの様々な関連を持っており、メッスでフランスに挑戦するということは実に興味深いのである。(続く)