第2840回 二冠を狙う欧州選手権(2) 5年半ぶりに復帰したカリム・ベンゼマ

 平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■チームメイトへの恐喝事件で2015年秋にフランス代表から外れる

 欧州選手権に向けてディディエ・デシャン監督が発表した26人のメンバー、その中で最大の驚きはカリム・ベンゼマである。ベンゼマがフランス代表で初めて試合に出場したのは2007年3月のオーストリア戦、チームの最古参である。当時はリヨンに所属していたが、2009年からスペインのレアル・マドリッドに所属、12シーズンにわたって活躍し、様々なタイトルを白い巨人にもたらしてきた。
 しかし、そのベンゼマも本連載第1931回で紹介した通り、2015年11月にフランス代表のチームメイトのマチュー・バルブエナに対する恐喝事件によって代表から追放されてしまった。この事件は裁判の結果、最終的にはベンゼマは無罪となり、恐喝にベンゼマが関与していないとされたが、ベンゼマは代表に復帰することはなかった。

■ディディエ・デシャン監督とカリム・ベンゼマの間の確執

 ベンゼマが代表に復帰できなかったのには2つの理由がある。まず、ベンゼマが代表から外れている間にオリビエ・ジルーがメンバーに入り、ベンゼマの不在を感じさせないようなパフォーマンスを見せたことである。すでに2010年に代表にデビューしていたジルーであるが、ベンゼマ不在の2016年欧州選手権では3ゴールをあげ、チーム最多得点をあげ、準優勝に貢献し、2018年のワールドカップではノーゴールながらも献身的な動きは高く評価され、優勝メンバーとなっている。
 ジルーの活躍についてはこれまでの本連載で紹介してきたが、もう1つはベンゼマとデシャン監督の間の確執である。ベンゼマは2016年ワールドカップのメンバーに選ばれる可能性はあったが、ベンゼマの名前はリストにはなかった。ワールドカップ前にスペインのメディアに対しベンゼマが「デシャン監督は一部の人種差別主義者に影響されている」発言したことが、2人の確執のきっかけと言われている。ただし、デシャン監督自身はベンゼマを二度と代表に選ばないと発言したことはなく、ベンゼマ待望論は常に存在していた。しかし、そのエースの復活なしでチームは好成績を残し、攻撃陣にはジルーだけではなく、キリアン・ムバッペ、アントワン・グリエズマンらが実績を残してきた。

■レアル・マドリッドで優れたパフォーマンスを残すベンゼマ

 一方のベンゼマであるが、名門レアル・マドリッドではセルヒオ・ラモス、マルセロに次ぐ長いキャリアを誇り、特に30歳を過ぎてから得点を量産し、2018-19シーズンはスペインリーグでは21得点を記録、2019-20シーズンも21得点、2020-21シーズンは23得点を記録、3年連続でリオネル・メッシに次ぐリーグ2位の記録であった。
 近年の好成績から再びベンゼマ待望論が沸き上がったが、今年1月にデシャン監督はベンゼマからの非難は一生忘れない、と発言した。33歳のベンゼマは二度と代表のユニフォームを着ることはない、ベンゼマの最後の代表出場試合は2ゴールをあげた2015年10月8日のアルメニア戦と思われていた。

■早くも起こったベンゼマ現象

 ところが、5月18日、テレビの生中継でメンバーが発表される中でカリム・ベンゼマの名前が呼ばれ、フランス国中は驚いたのである。
 もっともこの復活劇には可能性がなかったわけではない。規律を重んじるデシャン監督は首脳陣を批判したり、トラブルを起こしたりした選手をメンバーから外したが、その後復帰させたケースは複数ある。アンドレ・ピエール・ジニャック、ハテム・ベンアルファはそれぞれ3年のブランクの後復活した。2018年のワールドカップでの予備メンバー入りを拒んだアドリアン・ラビオも2年後に復帰、今回もメンバー入りしている。
 デシャン監督にはベンゼマ復帰に関する質問が集中したが、淡々とメンバー選出の理由として所属チームでのパフォーマンスの良さを説明した。
 また、ベンゼマと言えば背番号9であったが、今回の欧州選手権も背番号9はジルーが付け、ベンゼマの背番号は19である。フランスでは背番号19をつけた代表ユニフォームが飛ぶように売れ、早くもベンゼマ現象が起こっているのである。(続く)

このページのTOPへ