第3408回 回顧・欧州選手権(2) ジョージアを率いたフランス人のビリー・サニョル

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■スターが活躍できなかった大会

 前回の本連載で紹介した通り、フランスは準決勝に進出したものの、スペインに敗れたが、大会を通じて守備陣は健闘したものの、キリアン・ムバッペ、アントワン・グリエズマンという攻撃の中心が不調であった。攻撃陣では控えメンバーのブラッドリー・バルコラなどの若手がきらめきを見せたが、瞬間的なもので、チームの流れを変えるには至らなかった。
 今大会の全体的な印象としては、スターの攻撃陣が活躍できなかった大会であった。ムバッペは欧州選手権本大会での初ゴールをあげたものの、PKによるものであり、さらにこの1点だけにとどまった。オリビエ・ジルーも自身の持つフランス代表としての最年長ゴールを更新することができなかった。長年ポルトガル代表を支えたクリスティアーノ・ロナウドは今大会は得点をあげることができなかった。準優勝したイングランドはハリー・ケイン、ブカヨ・サカ、ジュード・ベリンガムなどが日替わりで活躍したが、優勝するには軸となる勢いのある選手が必要であろう。イングランドもまたコビー・メイヌーやコール・パーマーなどの活躍が目立ったが主役にはなれなかった。

■グループリーグから7連勝して優勝したスペイン

 スペインはイングランド、フランスなどとともに層が厚く、大会期間中に17歳になったラミン・ヤマルは大会史上最年少ゴールを決めただけではなく、4アシストを記録している。若手選手を盛り上げる周囲の力が他の有力チームとの決定的な違いであり、グループリーグ、決勝トーナメントで7戦全勝(延長戦での勝利1試合を含む)という記録は欧州選手権、ワールドカップを通じで史上初のことである。

■決勝戦を裁いたフランスの審判団

 印象としてはフランスのファンにとっては残念な大会であったが、誇らしい事実を2つ紹介しよう。まず、決勝はフランスの審判団のもとで行われた。フランスが決勝に進出しなかったからフランス人が笛を吹くことができた、という見方もあるが、かつてはワールドカップや欧州選手権の決勝で笛を吹くことは珍しくなかったが、今世紀に入ってからはめっきり減った。主審はフランソワ・ルテクシエ、35歳というこれもまた大会史上最年少の決勝の主審となった。2年前のワールドカップでは招集されなかったが、栄えある決勝の主審を務め、試合をコントロールした。副審はシリーユ・ムニエとメディ・ラムーニが務め、VARも38歳と若いジェローム・ブリサールが担当した。若い審判団の国内外での活躍に期待したい。

■ジョージア代表監督のビリー・サニョル

 もう1つは今大会で旋風を巻き起こしたジョージアに関する件である。本大会出場国が24に拡大され、これまでの実績のないチームが出場するようになった。その中で期待を大きく上回る活躍をするチームが出てきた。2016年大会のアイスランドの快進撃は記憶に新しい。今大会はジョージアが相当するであろう。本連載で紹介した通り、グループリーグ最終戦ではポルトガルに勝利し、決勝トーナメント1回戦では優勝国のスペイン相手に先制した。このチームを率いたのがフランス人のビリー・サニョルである。フランス代表の右サイドDFとして2000年代初めに活躍し、2006年ワールドカップでは準優勝、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)で
 引退後は指導者としては、ボルドーで2季監督を務め、バイエルン・ミュンヘンのコーチの経験があるくらいで、ラジオの解説者として活躍していたが、2021年2月にジョージアの代表監督となる。フランス人がアフリカやアジアの代表チームの監督となることは珍しくないが、欧州での代表監督は珍しいケースである。イタリアのナポリでセリエA最優秀選手となったクビチャ・クバラツヘリア、スペインのバレンシアのGKのギオルギ・ママルダシュビリなどを発掘した。予選では苦戦したが、プレーオフを経て悲願を達成した。
 サニョルはサッカーどころのサンテチエンヌの出身、サンテチエンヌでは10代で主将を任された。若くして主将を任された点はディディエ・デシャン(ナント)と共通している。指導者としてのサニョルに出会えたことはフランスのサッカーファンにとって、幸運なことであった。(この項、終わり)

 
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