第115回 輝きを失った欧州チャンピオンズリーグ(2) 人気凋落の原因とUEFAの英断
■当日売りでもさばけないチケット
前回の本連載では欧州チャンピオンズリーグのテレビ視聴率の低下について紹介したが、落ち込んでいるのはテレビの視聴率だけではない。観客動員も同様である。各チームのスタジアムの大小があるため、単純に平均入場者数などでは比較はできないので、今季のフランスにおける各試合の入場券の売れ行きについて述べよう。フランスからはリヨン、ランス、オセールの3チームがチャンピオンズリーグの本選に出場しているが、入場券が前売り完売となったのはキャパシティの小さいオセールの試合だけである。ワールドカップにも使われたスタジアムでのリヨン、ランスの試合は当日売りを行ってもまだ空席が目立つという状況である。
■人気凋落の原因1:リーグ戦方式の導入
それではなぜこのように人気が凋落したのか、その理由を指摘したい。まず、リーグ戦方式の導入である。欧州チャンピオンズカップにリーグ戦方式が導入されたのは1992-93のシーズンからである。このときは現在と逆で1回戦、2回戦はノックアウト方式で行い、2回戦まで勝ち抜いた8チームを4チームずつの2つのグループに分けてリーグ戦を行い、おのおののグループのトップが決勝を争った。現行のように序盤にグループリーグを行うようになったのは1994-95のシーズンからである。もちろん、黄金時代のマルセイユが1991-92シーズンのチャンピオンズカップの2回戦でノーマークのスパルターク・プラハに敗退するという番狂わせがあった。現行のようにリーグ戦方式であるならば、そのような波乱が起こっても、他のチームとの対戦でしっかり勝ち点を稼ぐことができたであろう。しかしながら、カップ戦にジャイアントキリングは付き物である。このノックアウト方式こそ、中世の騎士道に源を発する一騎打ち、決闘なのであり、その醍醐味が薄れたことは否めない。
■人気凋落の原因2:ボスマン判決による多国籍軍
そして現在の欧州チャンピオンズリーグを語る上で忘れてはならないのがボスマン判決である。このボスマン判決以降、EU域内の選手については外国人枠の制約を受けることなく、ビッグクラブはいずれも「多国籍軍」となった。以前は外国人枠は原則として3人であり、欧州チャンピオンズカップに出場するようなチームは半数がその国の代表選手であり、外国人選手を補強する、という構図であり、さながら「ミニ代表チーム」であった。したがって、欧州チャンピオンズカップに出場するチームを自国の代表として国民全体が応援する環境があり、欧州チャンピオンズカップは「毎年、秋から春まで続く簡易版の欧州選手権」という位置付けであった。ところが、ボスマン判決以降、すなわち1996年以降、ほとんどの選手が外国人選手、というクラブも珍しくなくなった。そのようなチームに国を挙げて応援できるかというといささか疑問である。
■人気凋落の原因3:一国から複数チームの出場
さらに追い討ちをかけたのが、一国から複数のチームが出場することになったことである。これは5年前の1997-98シーズンからである。自国から欧州チャンピオンズリーグに出場するのは1チームだけではなくなり、複数のチームが「自国代表」となった。そういう中で自国の代表を応援しよう、という気運が薄れるのは当然のことである。
■UEFAの英断、2次リーグの廃止
欧州チャンピオンズリーグは危機に瀕している。ドリームチームがたくさんの試合をこなし、順当にシーズン終盤まで残る、という戦略が欧州の人々に評価されていないのである。上記のように3つの問題点を掲げたが、第2点のボスマン判決による多国
籍軍によるチーム編成についてはもう後戻りできない。ところが、第1点のリーグ戦方式、第3点の参加チーム数についてはUEFAの英断によって変更できる。
今年度のチャンピオンズリーグは本選が始まったばかりであるが、UEFAは来年の大会方式の変更を発表した。それは2次リーグを廃止し、1次リーグが終了した段階から、16チームでのトーナメント方式を採用するということである。UEFAの決定に敬意を表したいが、果たして欧州チャンピオンズリーグはかつての欧州チャンピオンズカップ時代の輝きを取り戻せるのだろうか。(この項、終わり)