第316回 欧州4強への道(3) パリで誕生した伝説のチーム、パリに死す

■「伝説のチーム」、レアル・マドリッド

 第1回のチャンピオンズカップの決勝は1956年6月13日にパリのパルク・デ・プランスで行われた。この試合でフランス代表のランス(Reims)を下したレアル・マドリッドは、創設期に優勝を重ねたことからフランスでは「伝説のチーム」と言われている。フランス勢が欧州カップでレアル・マドリッドと対戦したことは今までに7回。うち2回はチャンピオンズカップの決勝であり、冒頭のランスは3年後の1959年6月にもシュツットガルトでレアル・マドリッドに敗れている。
 その後は決勝以外、すなわちホームアンドアウエー方式で5回対戦し、1956-57シーズンのチャンピオンズカップ準々決勝ではニースが挑戦したが、ホーム、アウエーとも敗れている。ニースはその3年後にもまたチャンピオンズカップの準々決勝で対戦し、1勝1敗であったが得失点差で敗れている。すなわち、チャンピオンズカップが誕生して最初の5年にフランス勢と4回対戦し、すべてその挑戦を退けているのである。そして、記憶に新しいのは今季のチャンピオンズリーグのグループリーグである。本連載の第244回と第270回に記したとおりであるが、マルセイユと同じグループFに入ったレアル・マドリッドはマドリッドでもマルセイユでも勝利をあげている。

■2年連続してレアル・マドリッドを倒したパリサンジェルマン

 このように、伝説のチームに歯が立たないフランス勢であったが、唯一の例外がパリサンジェルマンである。1992-93シーズンにはUEFAカップ準々決勝で、翌1993-94シーズンにはカップウィナーズカップ準々決勝で、パリサンジェルマンは2年連続してレアル・マドリッドを退けている。この2年ともまずマドリッドで第1戦を行い、パリで第2戦を戦っている。2回目の戦いはマドリッドでパリサンジェルマンが1-0と勝利し、パリの第2戦はパリサンジェルマンが余裕のドローで準決勝進出。第1戦はマドリッドで伝説のチームがフランス勢相手に喫した唯一の黒星である。

■第1戦ロスタイム、痛恨のハンドとPK

 しかし、パリジャンの間で今でも語り草となっているのが1993年3月18日のUEFAカップ準々決勝第2戦である。3月2日にマドリッドで行われた試合のロスタイムからドラマは始まる。第1戦は試合の終盤までレアル・マドリッドが2-1とリードしていた。パリサンジェルマンとしてはリードを許しているとはいえ、このスコアならばホームで1-0で勝てば準決勝に進出できる。しかし、ロスタイムにパリサンジェルマンの守りの要であるアラン・ロッシュがゴール前でハンド、これを得点を阻むハンドとみなされ、ロッシュは退場、そしてPKが決まってしまう。パリサンジェルマンは次試合ではロッシュを出場停止で欠き、しかも2-0以上のスコアが必要になってしまったのである。

■今でも語り継がれる第2戦終盤の点の取り合い

 そして伝説のチームが37年ぶりにパリに戻ってきた。1点差の負けを容認できるレアル・マドリッドは守備的な試合運び。前半35分にジョルジュ・ウェアがパリジャンを熱狂させても動じない。あと1点の欲しいパリサンジェルマンがついにゴールを奪ったのは試合終盤の82分。ダビッド・ジノラのゴールでついにパリサンジェルマンが得失点差で並び、アウエーゴール2倍ルールで優位に立つ。ここで目を覚ましたレアル・マドリッドはようやく攻撃を始める。しかし、前がかりになったレアル・マドリッドの全員攻撃が裏目に出て、ロスタイムに入ろうとする89分に名古屋でも活躍したバウドがゴールをあげて、3-0とリードを広げ、パリサンジェルマンの勝利は確定したかにみえた。しかし、ロスタイムにまさかのゴールが生まれる。ロスタイムに入って4分たった94分、チリ代表で本連載第回でも紹介したイバン・サモラノが数少ないスペイン人のファンを歓喜させる。ホーム、アウエーとも3-1と同スコアとなり、満員のファンとフランス、スペイン両国のテレビの前の視聴者は誰もが延長戦突入を覚悟した。ところが歓喜のゴールが生まれる。その1分後にアントワン・コンブアレがヘディングシュートを決め、4-1、2試合合計のスコアは5-4となり、伝説のチームを初めてフランスのチームが破ったのである。
 この試合、82分にバウドがゴールを決めるまでは非常に退屈な展開であったが、それ以後の13分は通常の試合の数試合分に相当するドラマの連続であった。第1戦ロスタイムのロッシュのハンドがなければ、試合は立ち上がりから緊迫したものになっていたが、パリジャンに今でも語り継がれる試合にはなっていなかった。パリで生まれた伝説のチームはパリで死んだのである。11年前のドラマの再現を期待する1万8000人の観衆でモナコのルイ2世競技場は満員になったのである。(続く)

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